『真理』

翠のことを話そうと思う。

モデルをしている。両親はいない。母方の妹に育てられた。その妹(翠にとって叔母)は小料理屋を営んでおり時々手伝っている。

モデルといっても色々ある。女性下着のモデル。その下着はそういう言い方をするのならば一般には需要がないもので、翠が普段つけているのも見たことはない。翠がつけているものは、色気も何もなく飾りも一切ないシンプルなもの。

どうしてそんな下着のモデルをしているのか尋ねたことがある。

完璧といえるほどのスタイルを持ち合わせている翠はもっと上を目指せるのではと思ったからだ。

しかし翠は悲しそうな表情を見せた。

どうしてそんなこと聞いたりするの?

私はこのかわいくて儚くて小さく丸まって、どこかに消えてしまいそうなこの下着たちを愛しているの。この子たちは女性が身につけて初めて花開くのよ。

丁寧に愛され、ひきちぎられることもあるけれど、それでもいいと思っているの。本望かもしれないの。

翠は目に涙をためながら僕に言い聞かせるように、少し怒りを込めて声を発していた。

翠は紅茶を飲むことも忘れ、そこから時が止まったように動かなくなってしまった。

一点を見つめながら涙をこぼしていた。

僕はひどく後悔した。翠を悲しませるようなことを聞いたつもりはなかったのに結果悲しませてしまったから。

翠の背景にあるカーテンがゆるい風に吹かれて小さく揺れているのとは対照的に僕の心は動揺という波に揺さぶられていた。

その日から翠の背景にあることを聞くのは避けている。背中にある花の形のような傷があることも。

誰にだって知られたくないことはある。いくら恋人でも、愛し合っていても。