三 午前……十一時五十五分 ドリームアイ停止

「犯人の目的はわからないが、おそらくドリームアイは乗っ取られた。つまり史上初の観覧車ジャックだ」

『え、ええと、ちょっと待ってください。ゴンドラは確かに墜落しましたが、それって事故じゃないんですか。お客様には申し訳ないのですが、システム上の欠陥の可能性が……』

「いや違う」

仲山は滝口の言葉を遮って伝えた。

「地上には届いていないかもしれないが、俺達は犯人と思わしき人間の声を聞いてるんだ。アナウンスがあった」

『アナウンス? でも、アナウンスが私はさっきしたので最後のはずです』

「その部屋からしかできないわけじゃないだろう?」

『ええと、確かに、システム管制室とかからもできるし、あと緊急用にサブの運営局の部屋も、あることにはあるんですが……』

「そうだろう。さっきあんたのとは別に、アナウンスがあったんだ。ゴンドラの乗客達はみんな聞いているから証言できる。だから今はこちらの話を聞いてくれ、あんたが頼りだ」

『待ってください、そう言われても……もう何が何だかわかりません。私、アルバイトですし、ただの大学生ですよ』

「ああ、それは災難だったな。でもこれは現実に起こってる出来事だ。こっちは真剣だと、わかるだろう? 俺達は君らの上空百二十メートルで宙吊りされた箱の中にいる。今の状況じゃ、この箱もいつ落ちるかわからない、そんな恐怖の中にいるんだ」

『……ええと、とにかくそこでもう少しお待ちください。こちらが先ほどアナウンスしましたが……』

「いや、わかっている。『ドリームアイ』のシステム復旧の目途なんて立っていないんだろう」

『あ……はい、実はそうなんです……』

「だから地上の情報が頼りだ」

そこで、落ち着きを取り戻そうとするかのように滝口が大きく深呼吸をする。

『では、仲山さん。私は何をすればいいですか?』

「ありがとう。こっちも、観覧車停止の原因がわからないのは理解している。まずは地上の様子を教えてくれ」

『ええと、さっき地上に落下したのは五番のゴンドラです。消防の人が来てくれるそうなので、ゴンドラの消火は多分任せるんだと思います』

「うちの隣のゴンドラだな。ご夫婦が乗っていた……」

『……その、乗客の方は、おそらくは……。でも、ドリームランドの運営から警察、消防、救急には連絡したそうですから、あとはお任せする形になるかと』

「そうか。そうなれば現場から君は追い出されるだろう。警察は禁止線を張って、現場保持に努めるはずだ。その前に言っておきたいことがある。これは警察には話さないでくれ」

そう言うと仲山は窓の外に視線を送った。