三 午前……十一時五十五分 ドリームアイ停止

次の瞬間、頭上のゴンドラが空から降るような勢いで地面に落ちた。横を通り過ぎる瞬間を仲山は見ていた。それはスローモーションのように感じられたのだが、ゴンドラの中は見えなかった。衝撃音と爆風が吹き荒れ、仲山達の乗っているゴンドラもショックで大きく揺れた。

きゃああああと、大勢の叫び声が上がり、地上は混乱した。スピーカーからの音声はそこで切れて、うんともすんとも言わない。

頭を低くした仲山は凛の耳を押さえると、紺のジャケットの内ポケットから携帯を取り出した。かけた相手は惟子だ。しかし呼び出し音が虚しく鳴り響くだけで、しばらくして留守番音声へと切り替わった。

「全くこんな時に、あいつはいつも出ない」

「ねえ、どうなったの? 凄く怖いよ」

凛の目からは大粒の涙が落ち始めた。

「凛、大丈夫だ。これはアトラクションだよ、何も怖くないんだ」

何か娘を落ち着かせるものはないか。そう思った仲山は、惟子から受け取った水色のリュックを開ける。一番上に耳当てが入っていた。防寒用だろうがちょうどいいと、凛の耳にそれを当てる。

「ちょっと静かになったかな。あとはこれだ」

先ほど拒否されたクマのぬいぐるみも取り出して渡すと、凛はそれをぎゅっと握りしめた。あとは、外が見えないように凛をゴンドラ内の床に座らせ、パンとお茶を渡して落ち着かせる。

「じゃあ、少し待っててくれ」

ふうう、と深呼吸をすることで、仲山は落ち着きを取り戻したようだ。

もう一度地上を見ると、さっきまで頭上にあったゴンドラが観覧車から外れ、地上に墜落して『愛の台地』の上で燃えていた。丸みのある形であるから、落下の衝撃で転がったらしくドリームアイから少し離れてしまっている。激しい火の手が上がっており、中にいる人間は助からないだろうと予測できた。

火から逃げようにも、ゴンドラの開閉は全自動で手で開けられそうにない。この条件は自分も同じだと気付いた仲山はゾッとした。それに、今低い位置で停止しているゴンドラならともかく、仲山の乗っているゴンドラの高さでは、そもそも落下した時点で即死だろう。