【前回の記事を読む】難解な数式と思いきや…「相対性理論は時空の歪みを表したもの」

第1部 相対論における空間の問題

1 沈みこむというイメージ

普通は今更小難しい原典に当たることなどないだろうから、空間の歪みと重力の因果関係について、一般相対性理論の論文群に説明があると信じる人が大半なのだろうが、そんなものはどこを探してもない。運動エネルギーと重力は同じであるという唐突な宣言が論文の冒頭にあるのみだ(Entwurf einer verallgemeinerten Relativitätstheorie und einer Theorie der Gravitation、「一般相対性理論および重力論の草案」)。

つまり、エレベータの思考実験論文(これは後述する)において不一致点を強引に切り捨てて同一視したことを、続く論文では証明済みの既成事実としている。論文群が互いに既成事実化しながら問題の周囲を回っているだけである。

重力を運動エネルギーという形でのみ発揮できる条件を与えれば、当然そのほかの運動エネルギーと同じものにしかならない。電気をモーターの回転という環境でのみ発揮できるようにして、電気とは回転する力であると結論することは無意味だ。この冒頭部分が言っているのはまさにそれと同様の決めつけだろう。そしてまた唐突に、重力は空間の歪みであると宣言される(同前)。

だが擂鉢状のくぼみは重力を前提する限りにおいて、そしてその材質についてかなり微妙な条件をつけて初めて重力を生むのである。空間の歪みも大きな天体が小さな天体をたぐり寄せる力を前提としてのみ意味があるものになる。もっとも、この頃の書物は以前より少し用心した表現になっており、歪みに沿って移動すると書いてあったりするが、なぜ歪むのかについて不明であることは同じだ。

擁護者はこのことについて「アインシュタインは思考実験を繰り返した結果云々」と言うわけだが、彼はひらめきに夢中になってしまい、検証を忘れている。「時空の曲率」などという神秘めかした概念が説明を与えていると錯覚しているだけのことなのだ。

2 思考実験という話芸

相対論の空間把握が最も見えやすい、有名な思考実験を取り上げる。当該論文は“Über der Einfluss der Schwerkraft auf die Ausbreitung des Lichtes”1911、邦題は「光の伝播に対する重力の影響」。

これは重力場の中を自由落下するエレベータと、無重力空間を上方移動するそれとの比較において、重力を空間の移動として定義することを試みる、有名な思考実験である。相対論を民衆に膾炙(かいしゃ)せしめる重要な役割を持つ提案だが、拍子抜けするほど単純な詐術に過ぎない。現実めかした表面的な記述は、なぜこれに人々が真実味を見るのか、むしろ不思議に思える。