伝統的脈診法を補完する役割を担う良導絡測定法

我々鍼灸師は、患者さんの病態を把握する手段の一つとして、脈診を行います。六部定位診又は三部九候診です。この脈診法に関しては、長野潔先生の診断法・論究・実践法が古今東西で最も優れているもので、治療家は是非参考にして、習得すべきです(軌跡20頁以下・探究387頁以下)。

しかし、長野潔先生の脈診法にも、不十分な点或いは限界を指摘することができます。

実際に、私は治療活動開始当初から、長野潔先生の脈診法を習得しようとし、悪戦苦闘しながら、この脈診法の奥深さ・素晴らしさを感じつつも、どうしても、避けて通れない疑問を抱き続けていました。例えば、肝の脈に何らかの異常があった場合、それは「右肝経なのか左肝経なのか」どうやって判断するのか、ということです。

任脈・督脈・帯脈以外の、十二経絡は、正中線を挟んで、左右平行に走行していると考えられていますが、左右の何れの経絡なのかは、どうやって判断することができるのか、ということです。

これだけ鍼灸界を席巻し、賛同・実践する治療家が多い長野式治療をする過程で、どうして誰も疑問を提起しないのか不思議でなりませんでした。肝経だったら左右どちらでもいいじゃないか、という先生方は、治療家としてどうなのかな、と思います。同じ肝経でも、左右では、異なる組織・器官・臓腑の営みに関与し、支配しているからです。

勿論、左右一対になっている組織・器官・臓腑もありますが、それでも、その一対の「どちらの組織・器官・臓腑なのか」を判断できません。「脈診を補完するには、触診をして、患者さんの主訴を問診し、西洋医学的検査結果を参考にすればよい」と反論されるかもしれませんが、そのような判断で治療をする治療家の姿勢には、納得できないところがあります。

解決法は簡単です。良導絡測定器による測定結果のチャートを参考にすれば、良いのです。良導絡測定は、中谷義雄先生が考案したもので、皮電点或いは良導点という、手首と足首付近の電位を、上下・左右二十四カ所測定比較することで、十二経絡の左右差を確認できます。測定点は、五行説とは無関係な、「各経絡の代表的経穴」となっており、これはこれで、系統的説明に困ってしまう所もありますが、利用することによるメリットの方が多いと思います。

同経測定値に左右差がある場合の利用効果は素晴らしいものがあります。例えば、右腎経の測定値が、左腎経の測定値と比較して高値を示す場合には、右腎経の支配・関与領域にある、組織や器官や臓腑に、交感神経過緊張の症状、つまり炎症・興奮の状態が予見できるのです。右腎炎や子宮内膜の右増殖或いは剥離障害や右扁桃の炎症等々がその例です。