【前回の記事を読む】鍼治療は痛みを我慢するものではない!専門家が重んじる「鍼の響き」とは?

第2章 東洋医学的施術法によるアプローチ方法

鍼灸や指圧治療の適正刺激

鍼灸にしても指圧にしても、刺激量が適正でなければ、治療効果が挙がらないだけでなく、逆に症状を悪化させてしまうことさえあります。

鍼灸にしても指圧にしても治療とは、患者さんの生体に、何らかの「刺激という名の、傷ないしはダメージ」を与えて、それに対する患者さんの「反発力ないしは治癒力や快復力」を引き出す手助けをする事が目的なのですから、このさじ加減を間違えると、治療行為とは云えないのです。

適正刺激(ドーゼ)に関しては「アルントシュルトの法則」と呼ばれる理論があります。弱すぎる刺激は治癒力回復に無効で、強すぎる刺激は治癒力を減退させてしまい有害である。適正刺激こそが、生体反応を利用した治癒力向上に役立つ、という考えがこれです。

この理論に沿った治療方法は、簡単なようで、結構深い思慮が必要となります。

患者さんの治療時点での免疫力の多寡や治療部位が表在部にあるのか深部にあるのかの差、体質が実証なのか虚証なのかの差、これらを総合的に判断して、刺激の質と量と方法を決定して実行しないと、治療効果は望めません。補法・(しゃ)法という観念がありますが、基本的には泻法である、鍼灸や指圧刺激も、運用次第では、補法に用いることができます。

各論で、個々の病症の治療方法は詳しく述べますが、要は、どうすれば患者さんの治癒力を向上させるのに効果的な手段・方法であるのかを、その都度的確に判断して、対処することが大切なのです。

治療の習慣性

定期的な治療の反復は、習慣性を生じさせます。

慢性的な肩こりを主訴とする男性患者さんがいたとします。彼が、毎週一回例えば土曜日に指圧整体又は鍼灸治療を受け続ければ、彼の肩は金曜日の夜には、凝り凝りの状態になってしまうことでしょう。パブロフの条件反射理論通り、生体が常時同一刺激を受け続けると、一定の同一反応を示すようになるからです。

つまり彼の肩の筋肉は、習慣的刺激に慣れてしまい、その刺激なしには、恒常性を保てなくなってしまうのです。肩凝りの原因が、筋肉の疲労蓄積である場合には、風呂にでも入って、肩にシャワーを当てて、その超音波効果により血行促進を図れば治ってしまうものです。

しかし、肩凝りの原因が、骨盤や腰椎や胸椎や頸椎や頭蓋骨の、骨格的変形にある場合や、内臓の病変の反射(ヘッド氏帯の反射)である場合には、これらの根本原因を治す根本治療をしなければ、いつまでたっても、頑固な肩凝りはとれません。

冷えや()(けつ)による骨盤変位や、頸椎症、顎関節症、内臓の炎症が原因の肩凝りは、原因疾患の治療を並行して行わないと、解消しません。

後記各種個別の症例と、その改善法で、詳述します。