私たちの春

「京子ちゃんは、料理が上手だし。それに最近少しずつ大人っぽくきれいになってきたような気がするわ」

「えっ。ホントに」

「ええ、そうよ。だんだん女性らしく美しくなってきた」

「私、高校を卒業して、大学生になったらお化粧しようかな」

「そうね。そうしたらいいわ。京子ちゃんは、肌がとてもきれいだから、魅力的になると思うわ」

「髪も今はショートだけど、伸ばしてみようかな」

「そうね。京子ちゃんは髪質がいいから、セミロングくらいにしたらステキだと思う」

「服もいつもパンツスタイルばかりだったけど、ワンピースとかも着てみようかな」

「大学生になったら、色々とおしゃれしなさい。人の心を引きつけて夢中にさせるような、そんな女性になっていいのよ。誰にも遠慮することないわ」

「父さんは、京子に近寄り難くなってしまうな」

「料理が上手で、仕事もして経済的に自立して、美しくなったら、男性から声をかけられるようになるかもよ」

「なんだ。父さんは心配だ」

「大丈夫よ。私、男の人には全く興味がないから。声なんてかけられても素通りします。お母さん、変なことばかり言わないで」

「京子ちゃんが、きれいになってきたから言うのよ」

「私は、大学へ行ったら、管理栄養士の資格を取るための勉強をします」

「そうだ。それがいい。その方が父さんは安心だ」

「私は男の人のことを考えるよりも、自分が精神的に経済的に自立するためのことを考える方がよっぽど関心があるわ。私は基本、男の人になんか振り回されたくないのよ。いつもしっかり自分の脚で立って、自由でいられる環境を作っておける、そんな大人の女性になりたいの」

「お母さんも若い頃は、そうだった。だから自分の好きな料理の道で、自立していたのよ。だけど、ある時から、お父さんと恋してしまって。恋心は、ある時、突然降ってくるように自分の心の中に現われるものなのよ」

「うん。その時が来たら、私も恋するかもしれない。でも今は全然考えられない。自分が恋するなんて、想像もつかない。とにかく今は勉強と料理のことだけ考えていたい」

「父さんも、それに賛成だ」

「京子ちゃんは、しっかりしているわね。お母さんは京子ちゃんを応援するわ」

「食事が終わって食器を洗ったら、私、勉強しなくちゃ。もうすぐ中間試験があるの」

「だったら、食器洗いは、お母さんがするわ」

「ホントに? それでは、中間試験が終わるまでの間だけ、お母さんにお願いします」

「了解よ」

「それじゃ、お言葉に甘えて。ごちそうさまでした。今日は、もう自分の部屋へ戻るわ」

「そうね。そうしてちょうだい」

私は、自分の部屋へと戻っていった。