第1章 人生の座標軸としての自分軸

1 自分軸の前提

(3)死生観と人生の5大事実 

①死生観

サキ:人生を送る上でぶれない自分軸の設定のために、「死生観が最重要なもの」の1つであると聞いていますが、それはなぜですか。

コウキ:それは死生観が人生の質や生き方の質を決定することに関連しているからです。より具体的には人生とは私たちが生きていると意識している時間であり、時間そのものです。つまり、命は現在の瞬間に生きており、人生で最も重要なものの1が時間です。しかも「光陰矢の如し」です。

それゆえ、生存本能に基づき人生をいかに有意義で濃いものとできるかが人生の生き方として決定的に大切です(注1)。このような「濃い時間の使い方ができる場合」とは自分のしていることが好きでワクワクし、かつそれに価値を感じている時です。

このような場合には私たちはしばしばフローの状態に入り、していることに夢中になり効率性や成果も上がります。このように貴重な人生を有意義なものとするためには、生存本能に基づくしっかりした死生観(注2)を持ち、人生全体を俯瞰(ふかん)し達観することによって命の貴重さ・(はかな)さ・生かされていることの有り難さをしっかり自覚することが大切です。

サキ:なるほど……死生観が確立すると濃い時間の使い方ができるようになるのですね。そして、確立した死生観に基づいて私たちは何のために生き、後世に何を残すのか(注3)を考え、人生全体の長期的な夢や人生の目的の明確化と生き方を決めることができるのですね。

コウキ:そのとおりです。この場合、時間的視野としては過去・現在・未来の3つがあり、どれに焦点を合わせるのかが問われています。このうち「未来志向(注4)で現在に生きること」が特に有用です。

言い換えれば、生存本能に基づく「死にたくな~い!」「生きた(あかし)を残した~い!」という自己の有限性への恐怖感からの不死への本能的な願望に基礎づけられた人生の終点つまり自己の理想的な死に方から現在を見る、すなわち未来を見据え未来の視点から現在を見るという逆算思考(バックキャスティング)(注5)が大切です。

それに基づいて人生の全体像を把握し、未来の自分の理想的な姿(理想自己)になるために、夢を明確化し、それを達成しようとする真に「人間的生き方」をすることが大切です。

しかし残念ながら、このことに真正面から真剣に向き合わず、過去から現在そして未来へというように、今ある状態から考える積つみ上あげ思考に基づき生きられるから生きているという無意識的で動物と変わらない「動物的な生き方」をしている人が少なくありません。


(注1) 人生における時間には量と質(「人生の量と質」)があり、量は生まれてから亡くなるまでの長さ(寿命)のことであり、これを管理するのが時間管理です。他方、質はできる限り夢を叶え成功し幸せな人生を送ることであり、これを管理するのが質管理です。このためには時間の使い方や密度を濃くするための密度管理が大切です。

(注2)「死生観」とは人生は最終的には死に帰着するすなわち人生は1回限りであり、人は必ず亡くなるという無相の価値観に基づきこの生命の儚さや貴重さ一瞬の命への気づきや自覚から、この人生をいかに生きるべきかという夢や他人に対する慈悲心を持ち、今を全力で生きようなどという考え方や信念のことです。

(注3)後世に残すものには例えば、思想・生き方・事業・お金などがあります。

(注4)「未来志向」とは現在の状況だけではなく、目的志向的にその先を見、考えることができることすなわち航海図と羅針盤を携帯し、未来と密接にリンクする考え方であり、未来の夢や目標を目指して現在を考え行動することです。この場合時間は過去へと流れ去るが、心や言葉は未来へと流れ、未来を形成する力(「未来形成力」)を持っています。

(注5) 「逆算思考」(バックキャスティング)とはフォアキャスティングの反対概念であり、未来のあるべき理想の姿である目標を設定し、そこから振り返って現状と両者の差異(ギャップ)を把握し現在すべきことを考える方法です。