一章 帰郷

ライトは「一班の人は情報に疎いから、へんてこな考察しかできない」とさらっと一班を見下している。

「ノース国の思惑に何か裏があるというわけだな。だったら真相を教えてもらおうじゃないか」

「一年前、二班の武器庫から火の手が上がった。その数日後、過半数の班で急死する兵士が続出した。これはスパイが忍び込んでいるとしか考えられないだろ」

その火災は俺も現場に急行して救助活動をした。

「そんなことなら一班の俺でも知っているぞ」皮肉交じりに答えた。「あの事件のせいで一班でも何人かの兵士が犠牲になったからな」

ライトは「ちぇっ」と舌打ちした。ライトのふて腐れた顔は全くかわいくない。

「その出来事がノース国の休戦と関係があるのか?」俺はとりあえず聞いてみた。

「軍に紛れ込んでいるということは、スパイは今センターのどこかに潜んでいると推理出来る。戦争中全く足取りをつかめなかったのは、相当優秀な人材だったからだろう。そんな優秀な人が休戦中にセンター国で行う任務は、センター国を制圧するための戦略を組みやすくすること。それから正確な軍事力の把握。最悪国王の暗殺まで考えているんじゃないかな? 次の戦争は短期決戦でセンター国と決着をつけるつもりだ」

「ライトにしては説得力のある推理だな。でも素人にも推理出来る行動をスパイがしていると思えるか? 隠れて計画を実行するエキスパートが武器庫を放火するような派手なことをするはずがない。でもノース国がセンター国をつぶす気でいるのは間違いないだろうな」

「なのに……」時計をちらっと見てライトは途中で会話をやめた。

リスクを背負っても旅行をしたがる理由を聞きたがっていたのだろう。

ライトは乗車するバスの出発する時刻が近づいていることに焦り「そこまでしてなぜ他国へ行きたい」と単刀直入に聞いてきた。

「俺が行こうとしているのはイースト国だ。あの国は技術や思想、センター国にはないものが多くて、視覚で捉えるもの全てが勉強になる。晴れて休戦になったのだから、自分自身の将来に役立つものは吸収しておきたい」

しかし本心はそれが全ての目的ではない。もう会えることはできないとわかっていながらも、あの時の女の子が気になっている。いや、あの怪しい警備員のことかもしれない。

「何年向こうで暮らすつもりだ?」ライトは俺とバスを交互に見ている。

「なぜそれを聞く」

「この前、ドランとここの拠点で会ったからだよ」ドランとは、俺とライトなど小学生の時以来未だに関係が続いている仲間の一人。

「僕ら幼馴染グループの男四人のなかで最後に兵士に出たのは、ドランだといっていた。ドランとこの拠点で会った時、ドランはまだ残りの兵士期間は四年間だといっていた」

「ドランが任期を満了する前にセンター国に帰ればいいんだろ。わっかたから早くバスに乗れよ」

「なんか不満そうだな。全員が兵士としての任期を終えたらお祝いとしてパーティーをやるっていったじゃないか。もしかして戻らないつもりなの?僕ら仲間との約束を破るつもりなの?」二つの質問は俺の心を痛めた。俺には戻りたくなくても、戻らないといけない理由があり、そして俺はライトをすでに裏切っているからだ。

「悪かったよ。じゃあパーティーは俺の家でやろう」

ライトは納得をしたのか、くるりと反転して「全部ギルバートのおごりだからね」そういってバスに乗り込んだ。一班の報酬は高額だから、それを見込んでおごりといったのだろう。

確かに一班のなかでも一際活躍したのは俺だ。戦争の活躍というのは人を何人も……これ以上振り返るのはやめにした。

それにしても、ライトは今日まで何も変わっていなかった。

ライトは俺の変化に気づいていたのだろうか。

以前の俺はもう帰ってはこない。