運命の出会い

アメリカ出張から帰ってきて一週間ほど経つ。圭はグローバル企業の東京研究所にある自分の部屋で、パソコンのキーボードを叩き、最新のコンピューター言語に向き合っている。そこに所長が一人の営業部員を連れて部屋に入ってくる。

「東山君、ここにいる営業部の加藤君から協力して欲しいという依頼を受けた。加藤君が今コンピューターシステムの売り込みをかけている案件絡みで、大学病院での講演依頼だ。よろしく頼む」

所長はそう言って部屋を出ていく。この会社の研究所では、営業部への協力も業績評価の対象になっている。圭が立ち上がり、その営業部員と笑って握手をする。

「加藤、元気か。今日はいったい何の用だ?」

加藤は同期入社の優秀な営業部員で、さっそく用件を切り出す。

「圭の家の近くにある慶邦大学を知っているだろう。そこの湘南キャンパスにある医学部の大学病院で、最新IT技術についての講演を頼みたい。もう少しで新しいシステムがその大学病院に入るかどうか決まるのさ。そこにはキーマンの高木教授がいて、今回のシステム購入の決定権を持っている。高木教授はこれからの日本の医学界を背負って立つ人物と目されている人だ。その教授が、おまえの得意なAI技術を先進医療に応用したいと言っているんだよ」

圭が笑って返す。

「加藤、相変わらずだな。おまえの営業スタイルはシステム製品を売るというより、キーマンをたらし込むのが専売特許だな」

加藤が笑って新人研修の話を持ち出す。

「圭、新入研修で聞いた話を覚えているだろう。我が社の金融営業部の実力者、新井常務の話だ。新井常務は若い頃、自分が担当する銀行に新規のオンラインシステムを導入してもらうため、その銀行の頭取が住む家の近くにわざわざ引っ越しをした。新井常務は毎日早起きしてその頭取の朝の散歩について歩き、とても親しくなって、その銀行のオンラインシステムの巨額な契約を取ったという有名な逸話だ」

圭がそれを聞いて大笑いする。

「全く加藤には敵わないよな。四百年以上前、織田家の足軽だった秀吉が、とても寒い朝に信長の草履を自分の懐に入れて温め、信長に揃えて出し、信長に気に入られたというような話が今時通じるのか?」

加藤がえらそうに反論する。