第一部 第一章「二つの星の恋」  ゆきと

星の瞬く夜空は、こんなにも美しいのに──。先輩の顔は涙でくしゃくしゃだった。

「俺のことなんて忘れてさ、自分の幸せだけを考えて暮らしていれば良かったんだよ。俺は、こっちで幸せに暮らしているんだから……。俺にとっての『本当の親』は、育ててくれた親父や母さんだけでよかったんだ──」

僕は驚き、そして何を言えばいいのか分からなかった。下手に何かを言ったら、余計に先輩を傷つけそうで──。チームでは、分け隔てなくみんなに接して、先輩の周りにはいつもチームみんなの笑顔があった。「完璧な人」だと思っていた先輩が、僕の目の前でくしゃくしゃの顔をして必死に涙を堪えようとしている。

父親からの突然の告白。そして、『本当の親』の和人先輩への想いを知った今の先輩の心情は、きっと僕の想像を絶するものなのだろう。僕の悩みなんて、ちっぽけなものだった。しばらく泣いていた先輩は、無理に笑顔を作って、吹っ切ることなどできないはずなのに、吹っ切ったように、また星空を仰いだ。その横顔が、とても寂しそうだった。

まるでダンボールの中に入れられて捨てられている子猫のように、鼻を濡らして誰かが抱きしめてくれるのを待っているかのように──。

「星って、自分の命必死に燃やして光っているんだよな」

不意に先輩が、遠くの夜空を真っ直ぐ見つめながら言った。

「恒星っていうんですよね。確か、恒星の最期は、超新星爆発を起こして、分裂するって、中学のときに習った覚えがあります」

和人先輩は、

「よし! 決めた」

と言って、すっと立ち上がった。

「『決めた』って、何を決めたんですか?」

僕は、さっきまで思い悩んでいた和人先輩のことが、心配になって聞いた。すると、和人先輩は、笑って僕の顔を見て、こう言った、

「抗ってみるんだよ」

それから先の言葉は、何も言ってくれなかった。僕は、和人先輩が何に抗おうとしているのか分からず、ただ呆然と立ち尽くすだけだった。

「冗談だよ」

と言った先輩の背中は、自分の命と引き換えに、みんなの命を守ろうとするヒーローのそれに似ていた。