EGAMI零族

ラムカは、巨大竜巻に飲み込まれ、全てがゆっくりとスローモーションのように回転し体は自由を奪われていた。

だが、不思議と息は出来ていた。とにかく周りの様子を見ようと思い切って目を開けると、風の中心に一人の少女が浮かんでいた。

まるで少女だけ時が止まっているかのように見え、ラムカは目を奪われた。

(誰だろう。何処かで見た事がある気がする……)

その少女はラムカと目が合うと微笑み、そっと口にした。

「ラムカ……」

その声を聞いた途端、ラムカは気が遠くなり、再び気を失った。

次に目を覚ますと、犬、鶏、山羊の動物の顔が仰向けに寝ているラムカの顔を覗き込んでいた。

「うわっ!」

慌てて飛び起きると、動物達は顔を引っ込め、何やら相談を始めた。どうやらこの動物達は言葉を話せるらしい。よく見ると、体は人間そのものであり、顔だけが動物だった。

ラムカは攻撃の態勢を取りつつ混乱したまま彼らを凝視していると、犬の顔をした者が話しかけてきた。

「まあまあ、驚くのも無理はないが、まずは落ち着いて話を聞いてくれ。俺の名前はカイゼル。山羊の顔をした男はトラゴス、そして鶏の顔のヤツがフランゴだ」

山羊のトラゴスが目を伏せたままコクリと頭を下げ、鶏のフランゴはじっとラムカを見詰めていた。

「俺達人間だからそんなに心配しないでくれ。動物の記憶の種を体に入れ、このような体になっただけなんだ」

そして三人はそれぞれ、被っていた帽子や、髪をかき上げ額を見せた。その額には、数字の0の字が刻印されていて、自分達は(レイ)(ゾク)だとラムカに言った。

ラムカは、そう言われても零族が何なのか分からなかった。

「大陸島では零族は、よく見かけるが、大陸島から大分離れたこの辺じゃ、零族なんて居ないから、知らないのも無理はない」

犬の記憶の持ち主のカイゼルが雲海の遥か遠くを見詰めながらそう説明した。それを聞きながら、ラムカは初めて自分が船の甲板の上にいる事に気付く。