ここ数日夕刻に雨が降る。佐々と会わなくなって一ヶ月と半月。

いつもの窓際の席で、茘枝酒を頼もうと思ったが躊躇した。代わりに炭酸水を注文する。

店員の声に違和感を覚える。

ノイズが走っている。やはりあの電波のせいなのだろうか? 私はこの店の作業アンドロイドたちの管理を任されている。

対策は早いに越したことはない。私はパソコンを開き、管理センターに先ず連絡してから作業アンドロイドたちの停止時間を変更しデータを送った。今夜は店を早く閉め一体一体点検するのだ。帰れそうにないな、と思いながら格子窓の外に目線を送る。仕事を終えた者たちが道を行き交っている。傘をさし一定の距離を保ちながら、安全を確保するかのように歩いていた。

雨に色はないはずなのに黒いと感じる。

その雨の向こう側に私の視線は止まった。それは間違いなく佐々だった。

隣には来がいた。浅紫色のレインコートを着て佐々のさす傘の中で寄り添うように歩いていた。まるで迷子になった兄弟のようだった。

私は視線を外し目を伏せる。

カロン、

グラスの氷が音を立てた。

先ほどとは違う店員が、隙なく声をかけてくる。

「新しいものをお持ちしましょうか?」

私は「温かい飲み物をくださる?」と言う。

そしてもう一度外を見る。

二人の姿はもうなかった。

雨はさらに激しさを増す。

私は白い器を手に取り、ゆっくりと飲み干していった。

【前回の記事を読む】「生温かいゼリー状の液体に心が包まれるような夜」に出会ったあの人との関係