先の不安を抱きながら、私は今、その「伝統を守る」という事に一所懸命取り組んでいます。

この禅語集を作ったのもその取り組みの一つです。

文字とは言葉を記録し、その意味を正しく伝えるのに無くてはならないものの筈です。人にとって言葉は、心や感情を表現したり、コミュニケーションを図るのにとても大切です。

そして文字は人間の知恵と知識を留め置く大切な宝庫です。かけがえのない人類の財産です。文字が元来の成り立ちを無視し、音を表すだけの世界に移ってしまう事の恐ろしさを思わずにはいられません。

世の中は一体何処(どこ)に向かっているのでしょう。人の心の寄り処である言葉と文字は、人格形成の上でもとても大切なものです。

中国の長い歴史の中で素晴らしい書道家や哲学者や詩人が、その思想や情感を伝えて来ました。私達は、それを伝える使命があると信じて来ました。正しく美しい文字を残したいとの思いで研鑽して来ました。もう遅すぎるのでしょうか?

残りの私の人生は、せめてそれを、その素晴らしさを伝え続けて行きたいと思います。