小説 『毎度、天国飯店です』 【第6回】 竹村 和貢 サークル勧誘チラシの前で、『徒然草』を抱えた美人と出会った…。 天国飯店の定休日は毎週火曜日。アルバイト生四人で、月曜から土曜の間の五営業日を分担する。四人のうち誰か一人が二営業日に入る。その者以外の三人のうちの一人が日曜日に店に入る。日曜日は大学が休みなので、朝の十時から閉店の午後九時まで十一時間店に入ることになる。「ほな、俺、明日もバイトやさかい、おっちゃんに自分のこと話してみるわ。多分、おっちゃんも構へん言わはる思うねんけど」夏生は、「できない」とは思…
小説 『シュバルツ・ヴァルト』 【第3回】 萬野 行子 育成選手となり親元を離れ転校してトレーニングセンターへ通う日々 中学に入ると急に試合が増え、行動範囲も広くなった。スイミングスクールからは必ず誰かが引率にやってきた。小学校の頃は、父や母も来ていたが、中学生になった頃から、親がついてくるということが嫌になった。大きな試合のときにはこっそり来ていたが、小さな試合のときには試合があること自体、親に報告しなくなった。「来てくれなくてもいい」と言ったこともある。そのときの両親の寂しそうな顔は未だに脳裏にある。その頃だ…