その後にもこんなことがあった。五人対五人のグループ同士で、逃げる側と追いかけて捕まえる側とに分かれて、追いかけっこをして遊んでいる時、捕まえる側の井上が、逃げる子供を追いかけていると、もう少しで追いついて捕まえられるというところで、逃げていた子供の前に、井上と同じ追いかけるグループの子供が現れ、その逃げていた子供は焦って、急に方向転換して戻ろうとする。そして、追いつきそうになっていた井上ともろに頭をぶつけてしまうことがあった。

ぶつかった相手の子供は、「痛いっ!」と言ってすぐに泣き出したのだが、井上は、平然としている。それなのに、少しして、「痛いっ!」と言い出した。他の子供たちは、井上のやつ、痛くもないのに、相手が痛がっているものだから、自分も被害者になろうとしてわざと痛がっている、と疑われることになる。

そうなると、これまでの妬みや反感もあり、単に変な奴、という程度であったところが、だんだんと嘘つきで、こすっからい奴と見られるようになり、気がつくと、周りの友達がだんだんと遠ざかるようになった。

こうして、井上は寂しい幼少期を送ることになった。

井上は、その後、変な奴と見られないように、何か衝撃があったときには、その時に痛くなくてもとりあえず、痛いと言うように努力した。時に、それがわざとらしくなることもあるし、そんなことが痛いはずがない、とまた嘘つき扱いを受けるようになった。

井上は、どうしたらいいか分からなくなり、痛いと言うことを止めるだけでなく、その後に実際に痛みが襲ってきた時にも、本当の痛みをこらえるようになった。そうして、いつしか、痛みを感じない男と呼ばれるようになった。

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