だが頭一つの身長差があるゲイツを支えながらはたして逃げ延びられるか

―せめてどこか身を隠す場所は? 機械兵(アトルギア)に見つからずやり過ごせる安全な逃げ場は。

ふと目の前を影が走りすぎた。半狂乱の怒声を発しながら炎に突っ込んでいく木剣を振りかざした男。あれはカズマだ。

「余所者め…… 余所者めぇっ」

―そっちは危険だ、行ってはいけない!

咄嗟に出そうとした声がなぜか出なかった。足もすくんで動かない。理性を喪失した人間が悪魔の口に飛び込む様をエリサは黙って見過ごした。この世のものと思えぬ断末魔。望まぬ旋律が塞いだ耳朶(じだ)を震わせる。

「エ……リサ……」

「ゲイツ!」

我に返った。今は守る命があるのだ。呼ばれた名前に大きく振り向く。

「たす……けて……」

視線を送った先でゲイツの腹から鋼の爪が伸びていた。

「え……」

肩を貸すゲイツの真横に奴らが立っていた。その腕が仲間の体を貫いている。不意の出来事に、呆然と彼が赤いものを吐く姿を見つめてしまった。自分を呼ぶゲイツの声。ハッとしてエリサは彼の体を放した。

瞬時に構えなおし―「助けなくては」―その思考が手足を突き動かした。

雄叫びをあげて敵に突っ込む。

反撃を(かわ)し、機体に殴打を撃つ。撃つ。撃つ。何度も撃つ。接触した自分の四肢から不快な音が鳴っても無我夢中で殴り続けた。

そして―気がついたら空中に放り出されていた。衣服の裂け目から己の身を通っていた液体が弧を描き宙に軌跡をつけている。地面に落ちる衝撃。胸からドクドクとなにかが溢れ出す感覚。口内には苦い味。真っ白になった頭で考える。何が起きた? 視線だけ動かして周囲を見ると機械兵(アトルギア)に吊り下げられたゲイツが手足を力なく虚空に垂らしていた。此方を見ていて視線が合う。

光のない目がなにかを訴えかけている。視線を自分に戻すと理解した。

そうか。自分もやられたのか。だがそれでも。歯に力を入れ肘を立てる。このカラダはまだ動かせる。あれだけ殴れば損傷の一つはしているはずだ。必ず一矢報いてやる。ゲイツを救わねば。その思いだけでエリサは砕けた拳を地について体を起こした。

【前回の記事を読む】必死に敵襲を叫び走るも、村人は起きず…「このままでは全滅」