第二章 赤い双眸

あどけない顔が紅蓮に消えてゆく中で屋敷の外壁が爆発し一つの人影が飛び出してきた。木片が突き刺さり血塗(ちまみ)れになっているがあの赤髪はゲイツだ。火だるまとなった体を転がって救おうとしている。

「今助ける!」

衣服を脱ぎそれでゲイツの身を叩く。かろうじて炎は消せたが火傷が酷い。もはや気息奄々(きそくえんえん)だ。

「に……逃げ……ろ、エリサ……」

此方を認めたゲイツはそう訴えるが声はすでに潰れていた。視点が定まらぬのか目を泳がせながらゲイツは喀血(かっけつ)した。おそらく内臓がやられている。

「喋っては駄目、急いで手当てする」

「機械……が、また……奪って、い……く……」

「喋らないで、早く立って、一緒に逃げるの」

そう言って腕の下に肩を回すと妙な感触があった。敢えて目を向けなかった。手をゲイツの腰に回して支えなおす。物体の焼けた匂いが鼻腔を突く。力なく身をもたげるゲイツを手負いの自分一人で運ぶには想像を絶する苦痛が襲った。どうやら自分もまともに動けそうにないらしい。奴らの攻撃を受けすぎた。

片足が激しい痛みで重く感じるがそれでも仲間を見捨てて行くわけにはいかない。ゲイツの体を支えながら懸命にその足を前に出す。

「……エリサ……俺を、置いて、ここ……離れ……ろ……」

一歩歩くたび自分の足からゲイツの体から嫌な音が聞こえる。火炎が延焼し燃え盛る村。もはや鋼色した悪魔共すら見えないほど視界は(かく)一面(いちめん)で染め尽くされた。

「大丈夫、あなたを見捨てたりはしない」