その夜、私たち一行は、ショーンのアパートがある、デヴィス・タワーへ向かった。彼の部屋があるフロアーへ着き、ベルファストの夜景が見える所に立つと、ロバートは悲しそうな目で私たちに訴えかけるように言った。

「健、大志、向こうに光っている所が見えるかい。あそこが、兄のチャールズが殺された現場だよ」

ロバートは現場を指さしながら、悲痛な表情を顔に浮かべていた。彼の顔色は真っ青になり、青い瞳にうっすら光る涙を、私は横から見た。

この紛争はまだ終わっていない。そう私は確信した。北アイルランド、ベルファストの地には、今も色濃くあの紛争の爪痕(つめあと)が残っている。

そして未来を向きたくても向けない、重すぎる過去の事実がここには残っている。しっかりと向き合わなければ、紛争で亡くなった親族や友人を(とむら)っていることにはならない。私たちのような平和ぼけして生きてきた人間が、軽々(かるがる)しくこのことを語ることはできない。

しかし、だからこそ私たちのような紛争や戦争を経験していない人間が、彼らの苦しみを我がこととして捉え、一緒に悩まなければならない。同苦しなければならない。何故なら私たちは同じ地球人だからである。同じ地球の友人なのだ。もっといえば私たちは同じ地球家族なのである。

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