第五章 歓迎

しばらくすると彼は寝息を立てて眠りに落ちた。彼は優しい性格の持ち主である。私を傷つけたくなかったのかもしれない。真相は別のところにあると私は思った。

おそらく十一年前の私とは、手紙のやり取りがなくなった時点で、彼は私を拒絶したのだと思う。あれ以上親密になって、私が不慮の事故などで、連絡できなくなったとしたら……。その寂しさ、悲しさを、彼は二度と経験したくなかったのだと思う。私と中途半端に仲良くなって、別れが訪れたらどうしよう。そう彼は思ったに違いない。

だがそれ以上に彼は、十年()って違う物の見方をし始めたのかもしれない。私という人間にもう一度コンタクトを取ることの方が、彼の心の空白を埋めることができるかもしれない。私と中途半端な友情ではなく、真の友情を築き、結ぶことの方が、彼は幸せだったのかもしれない。

それは、彼が私に見せた誠実さだった。私に十年ぶりに連絡をくれたのは、彼の私への友情が、十年前を上回ったからだ。十年経って、私の彼への熱い友情が、時差ぼけのように届いたのかもしれない。

ロバート・ハミルトンは、孤独だった。私と連絡を取らなくなってから、彼は大学を中退して、アルコールに依存する生活をするようになっていったという。自分の思い描いていた道。それが何だったのか、彼は分からなくなってしまった。彼の周りの友人の中にも、彼と同じように苦しんでいる若者が、たくさんいたそうだ。

そんな人たちを、彼は見ているだけだった。いや、何もできなかった。その方法が分からなかったのだ。紛争が終わって五年しか経っていなかった、二〇〇三年当時の北アイルランドは、過渡期に入ろうとしていた。紛争時の価値観では生きていけなくなっていた。

敬虔なカトリックだった彼は、ベルファストの大学で、プロテスタントの青年たちとも、身近に接するようになると、彼はある疑念に(さいな)まれるようになる。このプロテスタントの人たちの仲間が、兄さんを殺したのだ。だが今は、その人たちとも、仲良く暮らさなければならない世の中に変わった。自分と主義、思想、宗派などが違う人も、同じ人間なのである。

そういう新しい価値観に、彼は戸惑った。時代の流れに、逆らうことはできない。しかし彼のお兄さんが殺されたのは、カトリックだったから標的にされたという事実だった。