大揺れの船が一昼夜にわたり南へむかって突き進んだのち、光三たち一行はエメラルド・グリーンの海と白砂の海岸にふちどられた奄美大島に到着した。

船上から陸地を眺めると、琉球松におおわれた奥深い緑の山々が延々と連なっている。奄美大島は光三が想像していたよりも山がちな大きい島にみえる。海岸には、パイナップルに似た橙色の大きな実をつけたアダンの木が群生している。まさに、光三好みの南の島。

奄美丸は名瀬港の沖でイカリを下し、県庁の視察団は艀に乗り移って船着場にむかう。艀が接岸すると、一行は光三を先頭に梅雨の明けたばかりの島に上陸した。さすがに、南国の日差しは強烈だ。強い陽光が本土からきた一行の目に差し込んでくる。桟橋を包む大気もじっとりとして暑い。

県庁の出先機関である大島支庁の岩元泰支庁長をはじめ、多くの島の人たちが桟橋に並んで迎えてくれる。知事に敬意を表して羽織姿の老人までいる。いかにも暑そうだ。桟橋に降り立った光三は、熱暑を浴びてたちまち汗ばむ。丸メガネも曇ってしまう。

「小島知事、遠路をご視察、まことにお疲れさまでございます。お出ましを、お待ち申し上げておりました」

白い開襟シャツ姿の岩元支庁長が出迎えの人たちから一歩前に出て、直立不動で挨拶をした。

「ご苦労さん。それにしても、ものすごい暑気に歓迎されたもんだな」

光三は汗をふきながら応じた。

「梅雨が終わったばかりの奄美は、とくに湿気が高いですから」

支庁長が光三の首筋に扇子で風を送ろうとするのを、気をつかうなと手を横に振って断り、その扇子を借りる。

近年、南国の鹿児島ではノーネクタイのワイシャツ姿が公式の場でも受け入れられるようになっていた。光三はそれを承知のうえで、いつもズングリとした体にネクタイを締めた背広姿でかため、胸には白いハンカチを忘れずにいた。

ごつい体躯を意識しているだけでなく、自分は京の都人だという光三なりの矜持でもあった。しかし、南の島の強烈な日差しと熱暑を浴びて、さすがに上着を着てはいられず脱いでしまう。

支庁長に案内されて名瀬の町内に入った光三は、明治八年に設置された大島支庁の白い石の門柱が聳える庁舎にむかった。島には立派すぎるようなこの支庁舎には、昭和天皇も来島時に立ち寄られたと聞いている。

支庁長がしきりに大揺れだった船旅を気の毒がるが、光三の耳には入らない。ついに奄美の地を踏んだ興奮で気分が高ぶっており、とにかく一刻も早く島内を見て歩きたいと気が急いていた。しばしのご休憩を、と勧める支庁長に、すぐに視察を始めるから先導するように命じる。それを聞いて、さかんに汗をふいて一服していた随行者たちもやむを得ずに立ち上がった。

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