第一話 ペニシリン

……!?……

南の瘡毒対策は、一ヶ月で全店終わった。

「これで完了ですね」

「ご苦労様でした。でも思ったより早かったな」

「各店の店主さんも治すのに賛成したのは、元締が瘡毒対策を理解してくれて、一番協力してくれたからですよ」

「目の前の金より将来の廓運営の方が大事だからな」

「話の分かる元締さんで良かったですよ。でなければ出来なかったかもしれませんね」

「これで女郎もお客も瘡毒の心配がなくなるからな」

「そうですね。あとはマラサックさえ付けていれば、“ややこ”も出来ませんからね」

「そうだな」

「いいことずくめですよ」

「本当だな。悪いことなど無いな」

「今度は北ですね。元締」

「明日にも治すように話に行ってくるか」

「それがいいですね」

「そうだ。やるなら早い方がいいから、これから行くかな」

「それもいいですね」

「先生も一緒に行かないか。どうだ。都合が悪いかい」

「治療が終われば、わたしは暇になりますから、いつでもいいですよ」

「それなら付いてきてよ」

「分かりました」

「銀蔵。先生と二人で北に行くから後は頼むよ」

「あの件ですか」

「そうだな」

「行ってらっしゃいやせ」

「ごめんよ」

「これは元締。いらっしゃいませ」

と座敷で探し物をしていた大番頭の幸吉が言った。

「これ! いるかい」

と右の親指を立てた。

「奥にいますよ。呼んできますか」

「いるなら俺が来たことを伝えてよ」

「分かりました」

と中に入って行った。

「旦那様」

「なんだ」

「南の元締が来ましたけど、どうしますか」

「なんの用だって」

「そこまで聞いていないです」

「バカヤロー。連絡に来る時は要件を聞いてこいよ」

「すいません」

「来たんではしょうがねぇ。中に通してくれ」

「はい」