「う~ん……、困った。オニオンにトマト……それにルッコラか……。どれを買えばいいんだろう」

突然に男が声を出したので、俺はギョッとした。まあ、想像していた声質ではあったが、考えを口に出すキャラには思えなかった。人は本当に見かけによらない……。などと考えながら見ていると、男とまた目が合ってしまった。ヤバイ……。今日、これで二度目な上、間近なので気付くかもしれないと思い、素早く男から目線をそらす。

「あれ、君……」

男が話しかけてきた。俺はいよいよ焦った。いや、俺は別にあんたのストーカーとかでは……と、脳内で必死に釈明を始める。

「さっき、道で会ったよね」

男は爽やかな口調で言った。

「あー……」

いきなり問いかけられ、俺は返事に困る。異性相手なら、なかなか洒落た展開なんだが……とつまらぬ考えが心をよぎった。

「この町のカーニバルに来たのは初めて?」

男は重ねて質問する。

「あ、ああ、まあ……」

もともと、この辺りはそんなに来ない場所だった。

「君は、緑と白、どっちが好き?」

「え……? 白……ですかね」

色? なんだ? 唐突な質問を実に自然に投げ掛ける才能を持った相手に、俺はたじろぐ。

「そうか。……よし、オニオンにしよう。……ありがとう!」

変わってるな、この人……。そう思い戸惑いを隠せずにいる俺に、なおも彼は話し続けた。

「僕も最近この近くに越してきたから、あまり慣れていないんだ。また会えたら、その時はどうぞよろしく」

「え……はい。……よろしく……」

……って、名前も知らない相手に何を言うのか。

「じゃ、また」

男は笑顔で片手をあげ急いでいる様子で足早に去っていく。男の向かう方向に、長い髪の女の子が待っていた。光沢のある滑らかな黒髪に何色ものエクステンションをしているが、見事な配色で淡いグラデーションに仕上げており、気高さすら感じさせる。遠くから横顔がわずかに見えただけだが、キレイな子だと分かった。あの男、ノーマルだったのか。変に警戒することもなかったな。それにしても、あのカップルが歩いていたらさぞ目立つだろう。