大仏は、自衛隊の制服を着て、巨大な大砲の後ろに立ち、暑いのにヘッドホンまでしてふうふういいながら作業している大勢の部下たちに向かって、発射の号令をしているかっこいい自分の姿を想像した。想像はふくらみ、今度は戦車に乗り、その上部の入り口のハッチを開け、そこから半身を出して、大砲の発射を号令する姿も想像して、うれしくなった。

どんなに大きな音であっても、聞こえないのだから、ヘッドホンもいらないし、自由に動けるのだから、これほどいいことはないだろうと考えたのである。

しかし、大砲の発射音は、火薬の爆発によるもので、音だけでなくその空気圧もものすごいはずで、音だけ遮断しても空気も遮断しない限り、鼓膜が圧力で破れてしまう恐れがあるのではと思われた。だから、ジェット機の発射係なども、みなヘッドホンをしているのではないか、と思われるわけである。

そして、ヘッドホンをしていれば、外からの音はほぼ遮断できる。その上で大仏のように全部遮断するのではなく、外からの音は遮断した上で、無線での会話ができるので、何かあれば対処できる状態になるのであり、やっぱりヘッドホンで十分というか、むしろヘッドホンが有効なのである。

よくよく考えてみれば、他の人たちはみんなヘッドホンをしているのだから、いくら大仏が号令を掛けようが、どのような指示を出そうが、伝わるはずがない。だから、司令官も当然にヘッドホンをして意思伝達の必要があるのである。つまり、大仏の能力は不要ということになる。

そもそも、大仏には、自衛隊に入って過酷な訓練に耐えられる自信もなく、結局、自衛隊への入隊はあっさりと断念した。こうして、大仏は、現在は建設現場で現場監督として働いている。

ここは、よく騒音のサンプルにも使われるほど音の大きな職場であり、杭打機や掘削機、大型のクレーンやユンボなどのいろんな建設機械や、資材のぶつかり合う音や落下音、さらには作業員たちの怒号など各種の音が入り混じっている場所であり、そうであるにもかかわらず、ヘッドホンなど使っていられるほど優雅な職場ではないので、大仏にはもってこいの職場なのである。

四六時中、大音量が鳴り響いているわけではないので、大きな音がしている時だけ耳をふさげばいいし、作業員に対する指示も大声を出せば伝わるので、正に、大仏にはもってこいの職場である。

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