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聴覚を操ることができる音喪力異能力者、大仏聡(おさらぎさとる)三九歳 建設業

大仏が話す。

「俺の能力は、神谷さんに似てはいるのですが、気を失うことはありません。ちゃんと普通に意識もあり活動はできるんですが、ただ、これは聞きたくないと思うと、音が聞こえなくなるんです。どうも、耳の中の器官の一部を遮断することができるようです。目をつぶるように、耳をつぶることができるんです。これによって、人の話を聞き流すことが可能となるわけです。私、顔が人より長いので、馬面(うまづら)ってよく言われてて、それで、馬の耳に念仏とも言われてからかわれていたこともあります」

これには、みんな反応ができず、しーんとしてしまった。

果たして、これは能力といえるのかどうか、評価が難しいところではある。最後のところは、自嘲的なギャグ、自虐ネタだったのかもしれないが、これも笑えるものではなかったのである。

大仏も自分の経験を話し出した。

大仏の経験も小学校時代に遡る。

大仏は学校の先生に怒られると、それが怖くて、耳をつぶってしまっていた。その結果、先生の怒りを余計に買ったことは、神谷と同様である。また、友達からもそんな態度を見て、いじめられることになった。小学校では、勉強のできないやつ、運動のできないやつ、そして、先生に怒られる要領の悪いやつなどが標的にされる例が多く、大仏もその対象に当てはまったようである。

ところが、大仏は、いじめられても耳をつぶってしまうため、全く動じることがない。大仏の受ける言葉は、「このばあか」程度はやさしい方で、「リアルだいぶつ野郎」とか「ウマシカ野郎」とか、果ては「ゴミ」、「クズ」とまで言われた。また、聞こえないふりをしているものと思われて、「耳なし芳一」をもじって「耳なし」などとも言われてばかにされた。

しかし、大仏は言葉の打撃は一切受けないので、何を言われても、どんなにしつこく言われても、顔色一つ変えず、平然としていられる。それどころか、いじめのきたない言葉を吐き続ける子供たちの姿は、声がなければただ醜い顔と動作しかないので、逆に滑稽ですらあり、大仏は、ついおかしくなることもあった。

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