赤ちゃんと過ごす二日目

奥さんはふいに立ち上がり、無言で大きなバッグに華ちゃんの荷物を詰め始めた。

「えっ、もう信じたんだ大丈夫か?」

「信じたっていうか……信じるしかないから……今はもう……」奥さんは涙を浮かべながら黙々と荷物を詰めた。

「ねぇ、華ちゃんのこと色々メモに書いてお知らせしたほうがいいのよね」

「いや、いらないよ。おやじさんはまだ生きてるから色々教えて助けてくれたよ」

「そう、わかったわ」

そりゃそうだよな、いくら本当のことでも実際に華ちゃんは三日間ここから姿を消すんだし、三日間のことはどんなに心配しても知りようがないんだから。帰ってくるまではよかったなんて絶対に思えないだろう。俺たちはただただ腹をくくって、出張と研修へ行くしかなかったんだ。奥さんは心配のあまり、そこそこでかめのバッグに三つも華ちゃんお世話用品を詰めまくっていた。

「おいおい、十年前にはこれ一個しかなかったぞ……」

俺の話にしぶしぶ奥さんは荷物を減らした。前日の夜、俺は華ちゃんをお風呂に入れながら、まだ何もわかるはずのない華ちゃんに話しかけた。

「華ちゃん、いいかぁ~明日から三日間はパパとママには会えません。少し若いパパとおじいちゃんがお世話してくれますからね。よい子にしててくださいね~」

華ちゃんはまるで意思疎通がとれていて、いまの話が全部わかったかのような顔をして見つめてくれた。

その日の朝、奥さんはいつもより早く起きて華ちゃんのお世話をしていた。たぶん、彼女は昨日の夜はほとんど寝てないんだろう。ぜったいに戻ってくるのがわかっている俺でさえ前の日はなかなか寝つけなかったんだからな。

「おはよう。早いね、研修の準備はもう万全なの?」

「おはよう。ええもう大丈夫よ。それより少しでも華ちゃんと一緒にいたいから」

「そうだね」

そりゃ俺だって本当に戻ってきた華ちゃんを見るまでは不安はある……十年前俺のところからいなくなったのは事実でも戻った姿は三日後まで確認できないんだから。でも十年前の俺のように信じて三日間頑張るしかないんだ。耐えて研修頑張ってくれ奥さん、そして俺自身。

「そろそろ出なきゃでしょ、きみは辛いだろうから俺が華ちゃんを置いて向こうに行ったのを確認して出勤するよ。きみはもう行きなよ」

「うん。ありがとう、じゃあお願いね。私も向こうに着いたら一報する。あなたも華ちゃんを送り出したらメールちょうだい。行ってきます」

奥さんは華ちゃんを抱き上げ頰にキスをして俺には聞こえないくらい小さな声で華ちゃんに何かを言い、そっとバスケットに寝かした。

「俺たちに任せておいて。いってらっしゃい」奥さんは少し涙目のまま出かけていった。