赤ちゃんと過ごす二日目

そもそもなぜ俺たちが華ちゃんを過去の俺なんかに預けなくちゃならなかったのか話さなくてはいけませんね。

奥さんは、産後二ヶ月で仕事に復帰していきいきと仕事をしていたおかげで昇進の話がきて、昇進試験を受けるために今回の宿泊研修に行くことになったのだ。

もちろん、またの機会にしたらよかったのでは?と思われるかもしれないが、二人目の妊娠出産をそろそろと考えていた奥さんにとっては今がベストの時期で最後のチャンスと思えたのだ。よりによって、年に一回しか行われない奥さんの会社のこの宿泊研修と俺の三日間の出張の日程がかぶっていたからこんなことになってしまったのだ。

どちらの用事もこの日俺たちでなくてはならなかったし、華ちゃんが普段通園している保育園は宿泊預かりはしてくれなかった。一度、やむなく宿泊預かりをしたとき、その子の親が何日か連絡もなく延長をしたということがあって以来、受けつけてはくれなくなったんだそうだ。

ベビーシッターとも考えたのだが、まるっきり知らない人に家に泊まり込みで華ちゃんのお世話をお願いする勇気もなく、三人の子育て中の妹にも頼めずにいたから、俺たちはこうするしかなかったのだ。

華ちゃんを預けた三日間、奥さんは会社が借りたホテルに缶詰状態で昇進試験のためのセミナーやら勉強会やらで華ちゃんの心配をする暇もなかったと、帰宅してから聞かされた。そして俺は慣れない地方支社の営業回りの指導員兼お手伝いで三日間足が棒になるかと思うくらいあっちこっちと歩き回った。

そういえば、俺には少しほっこりすることがあった。二日目の昼飯を買いにコンビニに入ったときのこと、俺は弁当を選び取り一緒に飲む物を探していた。小さな女の子二人が俺に近づいてきた。小学校低学年くらいの子たちで一人の目の大きな子がいきなり俺のスーツのすそを引っ張って話しかけてきた。

「ねぇパパ、今日はおつかれさま」

目の大きな子がそう言って俺を振り向かせた。

「あれ? 人違いだよ。知らない人に間違っても話しかけちゃだめだよ。でもありがとうね」

その子と色白でおとなしそうな子の二人が立っていて俺を見あげていた。後ろ姿で自分のお父さんと間違えて話しかけてしまったのだろう。目の大きな子は俺を真っ直ぐ見てちょっとふざけたような顔で笑っていたがもう一人の子ははずかしそうにもじもじしながら俺を見あげていた。

華ちゃんの親になって以来、俺にも父性が目覚めたらしく他人の子でも可愛く思えるようになっていたから、たとえ間違いでも小さな可愛い子たちとふれあえたのは嬉しいことだった。

俺たち家族の大変な三日間が終わろうとしていた。