この世に「おぎゃー」と生を受け、食べ物をいただき、体が成長していき、行きつくところが自分の部屋に引きこもって、食事を与えられて生きるだけというのはなんという悲劇だろうか。野生動物でさえ、自分で餌を見つけ、獲得し、天命を全うする。

それが、こと人間になると、「おぎゃー」と誕生し、家族に愛され、学校に行きだすと、いじめられるとか勉強が分からないとかで不登校になる子供が出てくる。小中学校の段階では一九九〇年代後半から毎年十万人以上が不登校になるらしい。

一九九〇年代後半から令和二年の二〇二〇年まで続いているということは、二十年以上改善されずに続いていることになる。誠に異常な状態と言わざるをえない。不登校にならずに、高校や大学を卒業して会社勤め、役所勤めを始めても上司からの叱責などで仕事を辞め、引きこもりになる人もいるらしい。そういう人々が積もり積もって令和二年現在約百万人の引きこもり数である。

吾輩も犬だから大した知恵はないが、「三十六計逃げるに如かず」、「勇気ある撤退」ともいうではないか。すなわち、勝ち目がないならば、戦わずに全力で逃走して損害を避けたほうがましなのだ。

学校でいじめられて親や教師に相談しても学校で解決されないならば、転校して新天地を見つけるべきだ。会社で上司に叱責され、ストレスの捌はけ口にされている、いじめられている、逃げ場がないと感じた時は、退職して新しい働き場を見つけるか起業するべきだ。

人生は長い。自ら命を絶つとか部屋に引きこもるというような家族を悲しませるような行動をとってはいけないと思う。この家のご主人は、

「大自然の中で仲間とのサバイバル、生き抜く経験が(たくま)しい、折れない、粘り強い心と必要とあらば勇気ある撤退を断行する臨機応変に対応できる心を育てる」

と確信しているらしく、息子が小学校四年生の時からボーイスカウトに入隊させた。息子は、温かな家の中でお菓子をモグモグ頬張(ほおば)りながらゲーム機をカチャカチャといじくっている方を望んでいたようだが、父親に背中を押されて渋々(しぶしぶ)ボーイスカウトのサバイバル体験に参加した。

息子が家で語っているのを聞いていると、訓練はなかなか過か酷こくなようだ。山奥で木や竹を切り出して雨風をしのぐ隠れ家(秘密基地)を作り、木と竹で食事を料理するための竈かまどを作り、火を起こす時は、原始時代同様、枯葉を集め、木と木をこすり合わせて発火させるそうだ。

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