第二章 夕日と……。夢人と……。

入学式、ピカピカの1年生。

初日、式も済み何人かの入学生、多分五人ぐらいで校舎の陰に行く。何か起こるのが私、“貧乏人のくせにこんなええ服着て”と左右のポケットは引き裂かれボタンは引きちぎられた。

誰から頂いたお下がりか、幼稚園児のうわっぱりの様な服だった。私は悲しくはなく未だ何年も生きていない人生の一部だった。帰ると養母も黙ってポケットを縫ってくれ、どうしたとも聞かなかった。

そんな小さなことが続いた或る日、教室でいつもの様にからかわれていたその時、突然、王子様が現れた。彼女達の前に立ちはだかり云った。私より小さな男の子。両手をいっぱいに広げていじめっ子達の前に立ちふさがり、“この子をいじめると僕が許さない”と、いじめっ子はほとんど女の子だった。

何の計算もない、彼の両手を、両足をイッパイに広げ、私の前に立ちはだかる後姿は一瞬でしかない出来事でも、着ていた服でさえ貴公子と思える程の私の一生で、只、一度の王子様だ。

可愛いくも賢くもない私、まして仲良くも友達でもない、只、彼の正義感が私を守ってくれたのだ。其処に至る迄の私にとって彼は(まさ)しく「清涼」の大切な思い出。

学校は今津小学校、担任は宮崎先生。大学を出て教師の経験も浅そうな華奢な感じの先生は、姿、形、は優しさでできていたと思う。美術の先生、だからと思ってしまう。

学校までは遠く、それでも少しも苦になることは無い。只、朝ご飯を食べれなかった。

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