第一章 アオキ村の少女・サヤ

薄暗い部屋は企みを行うのに格好の場。隣のゲイツの表情は平静(へいせい)なものではない。安穏さにかまけ油断した。この気配、状況……間違いない。ここは(ぞく)根城(ねじろ)だ。旅人を誘い込んでは食虫(しょくちゅう)()のように骨の髄まで喰らう輩に違いない。

「うっ」

ゲイツが唸り声をあげた。

(やはりこれは、毒!)

「うぅ……」

ゲイツが(うつむ)いたのを合図に列座(れつざ)していた影が一斉に立ち上がった。来る。咄嗟(とっさ)に腰に手をやるが剣が無い。やむを得ぬ、徒手(としゅ)空拳(くうけん)か。ぬう、と伸びあがった無数の影法師に対しエリサは座位で身構えた―。

「美味ぁい!」

「「「ヤッタァァーーアアア!」」」

――彼らが両手を上げて喜ぶまでは。

「え」

「いや、本当に美味いっすよこれ。俺、感動しちった」

そう語るゲイツの表情は平静なものではなかった。

村の食べ物がよそ者に気に入られるか不安だったと彼らははにかみながら言った。信じがたい言葉だが彼らの笑みを嘘と言いきるのもまたしがたい。一見、質素な膳上(ぜんじょう)。だが料理は美味だった。食材は突出せず互いに譲り合い味が奥深い。味覚の豊かさは人々の豊かさを物語っている。

食は文化の粋を知る術。旅の中でその程度の見識(けんしき)は培った。アオキ村は表面こそ貧し気だが貧困に落ちている訳ではなさそうだ。空腹の癒えた自分達を見ている彼らは満足そうな顔をしている。

だが思う。彼らは殺気じみた嫌悪の目でエリサ達を拒んだ。今となってこの変わりようは不審ではないか。