ファンタズマ

時は西暦二〇一八年十月二十日。

月並みな言い方だけど、その日突然、それは俺の身に起こった。

トラックの運転手を生業にしている俺は、大型トラックで練馬から、群馬方面に向かって関越自動車道を走っていた。高坂サービスエリアを過ぎた辺りだった。

突然前方から、眩いばかりの光が、物凄い勢いでこちらに向かって来て、瞬きする間もなく、俺の全身を包み込んで行ったのだ。目も眩むばかりの光にあろうことか、俺はトラックを運転中だったにもかかわらず、右腕で目を覆ってしまったのだ。

気を失っていたのか? どのくらいの時間が経ったのだろう? それは、ほんの数秒間の出来事だった気もするし、何十分も経ったような気もする。

『まずい、俺は事故を起こしてしまったのだろうか? 職業ドライバーとして、やってはいけないことをしてしまった』そんな思いが頭を過ぎった。

しかし、我に返ってみると、他の車両や中央分離帯などに追突したような衝撃は感じ無かったし、どこかを怪我した様子もなく、何の痛みも感じない。

それどころか俺は今、さっきまで運転していたはずのトラックを運転してもいない。

『ここはどこだろう?』俺は自分の置かれている状況を把握すべく、周囲を見回す。

俺の全身を包んでいた光はすでに無く、どこだかわからない場所で、俺はキャスター付きの、ひじ掛けが両側に付いた、ちょっと高級そうな黒い椅子に座っている。

目の前には、三十インチ以上はあろうかという、液晶画面のパソコンモニターが大きなテーブルに設置されている。そして液晶モニターの前にはキーボードが置いてある。そのキーボードの傍らには、有線でキーボードに繋がれているマウスが見てとれた。

『俺は何でこんな所に居るんだ? 確か仕事でトラックを運転して、関越自動車道を走っていたはず。ここは一体どこなんだろう?』

その場所は、ほぼ正方形の、柱のない百平方メートルくらいの広さの部屋で、俺が座っている席と同じ組み合わせのパソコンセットが、俺が座っている席の他にもう二組。

それと、誰も座っていない席に、ブラウン管のモニター画面を使用したパソコンセットが一組。俺の席にあるパソコンセットと同じセットに誰かが、俺が座っているのと同じキャスター付きの椅子に、それぞれ一人ずつ座っている。

その二人が、怪訝そうな顔で俺の方を見ているのだ。部屋の一方に目をやると、壁の中央部分をぶち抜いてはめ込まれた、高さ二メートル程の特殊な構造をした扉が見えた。

『あの扉は?』

一般の家庭では有り得ない構造物なのだが、何故か俺は、それが扉だと知っている。