その扉は、壁の向こう側にある部屋に出入りするための物で、その部屋に、光が一切入らないようにするために、特殊な構造にしてあるのだ。

つまりこのフロアは、一見百平方メートルほどの、正方形の部屋が一部屋だけのように見えるが、実は壁を隔てて二部屋ある、百八十平方メートルほどの広さだということが、頭の中にイメージとして浮かんで来た。

そして、壁の向こう側の部屋とは、感光式のネガフィルムを裸で出してプリントするための部屋、いわゆる〈暗室〉である。その部屋での作業を円滑にするため、一切光が入らないように、円筒形で二重構造という特殊な回転扉をはめてある。

外側は前後二か所に高さ二メートル・幅一メートルの出入り口用の穴が開けられ、内側は一か所に同じく高さ二メートル・幅一メートルの穴が開けられている。

そして真っ黒に塗られたその二つの筒は、内外が擦れ合う程の隙間で設置されていて、外側の筒は固定式、内側の筒は可動式だ。この中に入った人が、手動で内側の筒を回して反対側の扉から出入りする、という構造になっている。

ということまで、何故か俺は知っていた。

そう、回転扉や、回転扉の向こう側の部屋など、構造的な知識が俺にあるのは当然である。

なぜならそこはかつて、二十年ほど前に仕事をしていた場所にそっくりなのだ。

※本記事は、2022年9月刊行の書籍『ファンタズマ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。