私は救われる思いがした。そうか、それでいいのだ! これからは三日坊主を何回も続ければいいのだ。心が軽くなった。私の三日坊主の前進はここから始まる。何度も不採用通知書がそれからも届いたが、私はもうめげなかった! 

井戸の言うように、私は純粋に前進を開始した。年は明け、二〇一四年になっていた。そして二月、東京の就労継続支援A型事業所で、物流部門の仕事で採用が決まった。就労継続支援A型事業所とは、福祉的な側面を持っているが、会社としての機能を法的に備えている、障がい者向けの作業所である。井戸は、我がことのように喜んでくれた。

そしてロバートは、

「アメイジング(驚くべき)だ」

称讃(しょうさん)してくれた。

これで順調にいけば、半年後の九月には有給休暇の資格を得て、秋にロバートに会いに行ける! そう喜ぶ私に井戸は、こう諭した。

「これからが本当の勝負ですね、田中さん!」

私は井戸の意図していることが分かった。井戸は、この年で六年ぶりに社会復帰する、私の心身を心配してくれていたのである。幸い私を雇ってくれた会社は、障がい者雇用を推進している、就労継続支援A型事業所であった。

しかし二〇一四年現在、三大障がいのうち、身体や知的の障がいのある方たちに比べ、精神の障がい者の就職率は一番低い。手が悪い、足が悪い人たちは、目に見えるので、社会も会社も支援がしやすい。しかし精神の障がいは、周囲の人たちには見えない。健常者と間違われることも、行政からの精神障がい者手帳を見せなければあり得る。

私が健常者と同じようには仕事ができない精神障がい者だと分かっていて企業の側が採用したとはいえ、働くに当たって自分から、配慮して欲しいことを面接の際に説明したところで、いざ働いてみると、違うと思うことがある。これからの私の課題は山積(さんせき)している。

しかし前進あるのみである。過去には戻れない。帰れない。待っているのは未来だけである。過去の失敗は真摯(しんし)に反省しつつも、未来を見つめる。誰しもがこの点において一度は葛藤するのではないか。

人生を旅と例える人がいる。ならば私のこれからの人生の旅は、未来旅行記なのだ。そう心に決めた、私の心の中の飛行機は、虹を追っていた。(いま)だ見ぬ虹、ロバート・ハミルトンのいる北アイルランドへ、すでにその虹を追いかける飛行機は、大きな音をたてながら離陸しようとしていたのである。

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