「どーする?」

リビングに戻ってくると聡は純太に聞いた。リビングの一角に聡の学校の道具が置かれていた。食卓が学習机にもなる。純太は練習が終わった事が嬉しくて「うーん」としか言えなかった。

マンションを出て、二人は当てもなく自転車を漕いだ。途中にあったコンビニでアイスを買って河川敷まで行き、並んでアイスをなめた。秋川は広い川幅の所々に中州があって、水は申し訳程度に流れていた。それでも二羽の水鳥が浮かんでいた。暑い太陽の陽の中で、青い草の匂いがかすかにした。

「もう少しなのになあ」と聡は残念そうに言った。もう少しなのが覚えの悪い純太のせいなのか、豊兄ちゃんにパソコンを持っていかれたせいなのか、どちらのせいかは言わなかった。

発表は明日の昼休みと決めていた。純太の家は共働きで小学一年の妹は学童保育だ。だから今、家には誰もいない。練習場所はある。お父さんのパソコンもある。

純太は一瞬浮かんだ「良い考え」を口に出せずにいた。勝手に使った豊兄ちゃんのパソコンのせいで、聡が殴られたという記憶が蘇ったからだ。(お父さんは乱暴な事はしないが、やっぱりちょっとは怒られるかもしれない)と純太は思った。

「綾乃の家に行ってみようか」と自分の家を避ける為に純太が提案した。綾乃と聡と純太の三人は保育園から一緒に育った仲間だ。この前、綾乃の家に遊びにいった時、パソコンが置いてあった。もう少し練習すれば、二人の「本能寺の変」の完全コピー(完コピ)ができる。

聡は「オッケー」と言った。聡と純太はアイスの残りを一口で飲み込んだ。河にかかっている橋の上を一気に自転車を飛ばして駅に向かった。