『非現実の幕開け』

気がつくと、そろそろな時間帯になっていた。手頃な朝食を食べ終え、食器を洗い、家の電気をポチポチと消す。

日光がふりそそぐリビング。テーブルの上に置いてある姉にもらったブレスレットを右手首に巻き、学校指定のリュックを背負って家を出る。

徒歩二十分程で学校に着く近くて便利な通学路。その路地を俺は体力向上の為、ほとんど走って登校する。

学校の校門を潜り、席に座るギリギリに予鈴が鳴るが、それでも慣れた手つきで慌てる様子を見せない。背負っているリュックを机に置き、ノートや教科書類を机の中にしまい込む。

が、リュックが机との重心からズレてしまい、中に入っていた筆箱が床に落ちてしまう。

「うわ!」

「ガシャン!」と、筆記用具同士がぶつかり騒ぐ音が周囲に響き、教室の床に散乱する。予鈴が鳴った後ということもあり、既にクラスメイトは全員教室に揃っていた。そんな状態でこの失態はキツイ。付近の何人かは「何やってんだ、コイツ」と朝っぱらから呆れているだろう。

そんな彼らに頼る訳にもいかずに一人で筆箱から散らばったシャーペン、消しゴムを四つん這いになって一つずつ拾い集める。

「はい」

ふと聞こえた女の子の声。

その声の主は学校指定のカッターシャツに紺色のベストを着た少女、「日下部アイリ」だった。彼女はショートヘアの容姿端麗な女子学生で、勉強はできるそうだが、何かと無口で他の女友達とは一線を画す。

悪く言えばボッチ、かっこよく言えば一匹狼だ。 

彼女が自分に差し出した掌に目を落とすと、先程転がっていったシャーペンがそこにあった。恐らく彼女の領土内に侵入してきた俺のシャーペンを律儀に拾ってくれたのだろう。

「あ、ありがとー……」

彼女とは隣の席だが、無口なだけあって基本的に名前を把握しているだけの仲だったので、申し訳なさそうにそう言いながらそれを手渡してもらった。

渡し終わった彼女は机の上に置いてあった読みかけの小さな文庫本を手に取り、何事もなかったように読み始めた。

その後も、気まずさを抱えながら無事に筆箱の中身を全て回収し、教材以外をリュックに残し机の横に吊るす。

今日はそんな頃に担任の先生が入ってきた。

担任の先生を確認してから、クラスメイト男女二人組が毎朝の恒例行事「朝の会」を始める。

「朝の会」は時間こそかからないが、その日の関係者からしたら厄介なもので、逆に今の俺のように貢献心も無い人には、ただ進行の流れを感じていれば良いだけの楽な時間だ。

幾つもの項目を遂げ、最後に「近日のクラスメイトの良かった点」を述べる先生の話も終わり、そのまま「朝の会」自体が終わると思ったが、つけ足すように先生はこんなことも言った。

「えー、ついこの間も憑依生命体が近くに現れ、人が襲われたらしいので、皆ももし見かけたら対策本部SPHまで電話してすぐにその場から離れること、いい?」

そう言いながら黒板にカッカと音を立てながら、あるテレフォン番号を並べる。