里美さんの言った通りだ、死んだら欲望もなにもないな。我々だってコロナウイルスで死ぬかもしれないし、いつあの世に行くかなんてわからない。

じゃぁ、永遠に死ななかったらどうなる? そうなると、これからの日本をずうっと見ることができるのは楽しみだけど、もし悲惨な未来だったら死んだほうがましかもな。それに、死なないんだからずうっと仕事をしなくちゃいけないというわけだ。それもある意味悲惨だよな……。

だいたい、娘が僕より先に死ぬってことだろ。やっぱり人間は順番に死んだほうがいい。なんか、人間って生きることより死ぬことに意味があるような気がしてきた。ほんとに僕はなにがしたいんだ……。

「朝ごはんはいらないよ。現場を見てから会社に行くから」

「よしなさいって! 野次馬根性丸出しじゃない」

「いいんだよ。テレビに映るかもしれないから見ていてくれよ」

「そんな暇ないわよ! 私だって」

純一は慌てて洗面所へ向かった。その頃、橋を渡る電車の轟音が響く高架下。神様は涼しい顔で新聞の文字を目で追っていた。

「トラブルと言っているが、違うな。三十三人みんな殺されたんだ。こんなことできる奴はたった一人しかいない。まっ、わしの手間が省けたというもんだ」

神様は新聞をたたみ、猫のように背伸びをすると、その姿は靄が晴れるように風景と同化し消えてしまった。

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