2+1は……

~蘇らない過去~

翌朝、ドアが無かった気がして気になったが、慌ただしくまひるとヒカリが出ていった。仕事に追われて家に着き、玄関に入ると、ヒカリの笑い声が聞こえてきた。

まひるは、ヒカリが又テレビ見て宿題してないのだと思い、部屋に入るとソファーがずれてドアが開いていた。まひるは、慌てて階段を上っていった。

「貴方ね! いつまで居るのよ! 警察に電話するわよ」

すると、彼は平然と「此処は俺の部屋だし、住居侵入はおばさんだよ」と、言い放った。

まひるは、彼が居ることに加えておばさんと言われたことに腹が立った。

「おばさんって、何よ!」

彼はクスクス笑った。

呆れたヒカリが、まひるを引っ張り階段を下りていく。ヒカリがまひるに話し始めた。

「ヒカリは凛の事気に入ったよ! 凛は、悪い人じゃないよ。元々、ここに住んでたみたいだよ。まひるは知らないの? まひるの事もよく知ってるし、まひるの子どもの頃この辺は野原だったんでしょう?」

まひるは、ヒカリの話に驚いた。全く記憶にない話をヒカリがしているのだ。まひるは両親が居なく、叔母夫妻に育てられたのだった。そして子供の頃の記憶があまり無かったのだった。

しかし、ヒカリの話を聞いて胸が熱くなる感情を感じていた。そして、凛という名前が心の底にある事も感じていた。

~フラッシュバック~

引っ越しから数週間経ったが、一向に二階の住人は出て行く様子が無かった。

あれから、まひるは時折頭痛がする様になっていた。夢の中でも、うなされる事が多くなっていた。いつも同じ火事の夢だったが、毎日、忙しい大学病院での勤務が続いていたせいだと思っていた。

教授には学会で発表する資料集めを頼まれ、助教授からは相変わらず食事の誘い。まひるは、うんざりしながらも仕事をこなしていたが、唯一、医者らしいと感じる時は、やはり患者さんと関わり合う事だった。

病室を何気なく回っている時に、入院している子供達が鬼ごっこをしていた。突然まひるの前で子供達がぶつかり合う事故が起きた。その1人は1ヶ月前に頭の手術をした子供だった。近付こうとした時に、まひるは子供の頃の1ページを思い出し、酷い頭痛で倒れてしまった。

その時、凛がまひるを病室のベッドに寝かせた。凜は思わずまひるの髪を撫でたい衝動にかられたが、我慢して手で拳をつくった。

まひるが気がついたのはベッドの上だった。

「あれは……」

やはり考えても思い出せなかったが、気がつくと涙が止まらないでいた。

家に帰り夕食の支度をしている間、ヒカリは凛と遊んでいた。気がつくと、いつのまにか2人の団らんの中に凛が溶け込んでいた。

今日の出来事を考えながら料理をしていたら、フライパンの油に火が付き驚いた瞬間、凛がまひるをかばう様に抱き寄せた。又も頭痛で、気を失った。

遠くからヒカリと、凛の呼ぶ声が聞こえてきた。

「まひる、大丈夫?」

ヒカリが心配そうに覗き込んでいた。凛が絞ってくれたタオルを取り替え、まひるの額に手を当てた。なんとも言えない、心地良さだった。