五、鬼

朝夕のラッシュ時には、大勢のサラリーマンが波のように構内に吸い込まれるが、午前零時をまわると閑散とし、朝夕とはまったく異なる場所になる。北口には、十階建ての駅ビルがあり、昼間は老若問わず賑わう。もちろんこの時間では営業はしていない。南口は北口のような華やかさはなく対照的な様相である。

もちろん駅ビルなどなく、ただ出入口があり、そこにバスが大きく回転できるロータリーが目立ってあるくらいだ。かろうじて地元信用金庫の五階建てビルが一棟、ロータリーの向こうに自慢げに建っている。ロータリーのタクシー乗り場から歩いて一、二分離れた場所に、薄暗く真っ直ぐ伸びた路地がある。夜更けなので当然かもしれないが、誰も歩いていない。闇が人を遠ざける不気味な路地だ。

そこを身長二メートル、体重は百キロを優に超えた筋骨隆々でスキンヘッド、浅黒い肌、そして折り目正しい真っ白いスーツ姿の大男が入って行った。

五十メートル続く路地の突き当たりはT字路になっている。その突き当たりの正面だけが、この時間にもかかわらず明るく光を放っていた。まるで路地の光をすべて吸収し輝いているようだ。そこは三階建てのビル。

看板など名称がわかるものはなにもない。入口の前に世間を威嚇するような黒塗りの高級車が停まっていた。まわりに十人ほどの男衆が整列して誰かを待っている。この男衆、どこからどのように見ても反社会的勢力の人間だ。

入口から親分を囲んだ五、六人の男が現れると、一人がサッと車のドアを開け、整列していた男衆が一斉に、「おつかれさまでした!」と、頭を深々と下げる。ヤクザ映画そのもの。そして、親分が車に乗り込もうとしたとき、

「おまえらに尋ねたいことがあるんだが。じつは、人を探している」と、暗闇から不意に白い大男が現れた。あたりの闇の色が突如白色に変わった違和感に危険を察し、ヤクザたちは一斉に白い大男を囲む。その異様な風体と形相はどう見ても常人には見えず、ヤクザたちは一瞬ひるんだが負けじと身構えた。

白い大男の顔は凄まじかった。目が飛び出し、眉尻が鋭角に吊り上がっている。頬骨が出ているのか頬が盛り上がり、そこだけ血色がよく赤い。鼻筋は人並みだが、口が異様に大きく、顎が少ししゃくれている。スキンヘッド。

剃髪したというか毛髪の生えていた形跡が見えない。そして、白い大男のいちばんの異様さは、しゃべったときに見えたトラの犬歯のような薄黄色みがかった二本の歯だ。まさに現代の鬼のようである。