ベランダの手すりに頬づえをつき、ぼんやりと校庭を見ている修作の隣に、いつのまにか杳子が寄り添うように立っていた。それに気づいた修作をじっと見つめてきた。口元がかすかに「言って」と動いた気がした。しかし修作は何も言えなかった。あきらかに彼女は修作のはっきりした告白を待っていた。

修作から言わなければならないことはわかっている……だが、三者面談で修作の希望した高校はあえなく担任教諭によって否定された。それもかなり強く。抵抗を試みた。

何度もM高校の受験を進言した。けれど、通らなかった。修作にしてみれば一年間必死に勉強してきたのは、杳子に胸を張って告白するべく頑張った結果としてのM高校受験なのに、それが果たせなかった修作には、彼女に告白するだけのカードを何も持ち合わせてはいなかった。

成績は良くないが、美術だけは得意な少年のままでは背中を押すには弱すぎた。勇気を出して前に踏み出すことができなかった。それきり、彼女は意気地のない修作に対して気持ちが冷めたかのように距離をおくようになった。ただ、あとはそのままの流れで間近に迫った卒業式に突入するばかりで、……修作の恋は不完全燃焼のうやむやなまま霧に包まれていった。

実際卒業式の場にたたずめば、全く修作の心は卒業できなかった。

皆は、はればれと新しい未来にはばたく輝きに充ちているのに、修作だけが暗く、中途半端な白々とした卒業式を迎え、皆が自転車に乗り、三年間の学び舎を出ていくのに、ひとり修作は教室へと向かっていき、彼女が座っていた席につくと、机に伏して、独り言を呟く。

「来年、必ず受験をして、君に告白します」と。

いつのまにか修作は彼女の机を強く抱きしめていた。修作はその後に出会う女性たちすべてを杳子を尺度にしてしまうのだった。