杳子が東京から転校してきたのが中二の秋だった。秋が煮えたような、ぬるっとした春先のような陽気と、季節感を忘れてしまいそうな日だったことを、修作は妙にくっきりと覚えている。

杳子のまだなれない学校生活になにかと冗談を言ったりして話しかけ、きまわしをした。修作には以前からそんなところがあった。

小学生の時も、転校してきた男子生徒に真っ先に近づき同じようなことをした。高校受験の挫折まではわりあいに楽しい子供であった。しかし男子生徒が学校に溶け込むと修作はまるで興味を失ったように、すーっと男子生徒から離れていった。もう転校生には自分は必要ないと判断したからなのか。杳子にもやはりそうなるだろうと、修作はどこかで考えていたけれど、三年になり、席が隣同士になって、毎日近くで過ごすと、何か別の感情にとらわれた。

ずっと杳子と一緒にいたいと思う、学校だけでなく将来も……ずっと。クラスを笑わせたりすることは得意だったけれど、勉強はあまり修作はふるわない。というか、勉強自体まるでしなかった。

一方、杳子はいわゆる秀才肌で理知的で浮ついたところのない聡明な女子生徒だった。修作は自分に芽生えた感情をどうすべきか思案した。杳子に認められたい、胸をはって将来もずっと一緒にいてほしいと言える人になりたい、それにはまず低空飛行の成績を改善することが修作の出した答えだった。

学習塾に通いはじめた。一心不乱に勉強に取り組んだ。あっという間に一年が過ぎていく。進路決定がやってくる。