おかしい。なんか違う。なにが、と、はっきりとは指摘できないけど、でも、違うのは確かだ。いや……記憶が混乱しているだけなのか。っていうか、アタマが……ぐちゃぐちゃ、なんか、ごった煮のような。

あぁ、でも……、ほらっ、いつもの、あの学校の門が、ここに、ちゃんとあるじゃん。さっき、ボルボから降りて、トランクを開けるために車の後部に回り、そう、そのとき、ほぼ真横に、この門があった……違う! あれは、通用門だ、その呼び方で正しいのか知らないけど、いわゆる通用門で、いつも閉まっている。

目の前の開いている門は、いかにも正門らしく映った。門柱には、智洋の記憶どおりの学校の名前が彫られている。東大合格者ベストテン入り常連だという、男子のみの中高一貫制の受験校。御三家ではないみたいだけど、四天王の一角に位置するとか、誰かがどこかで……御三家だの四天王だの、実感はなかったけど。ま、とにかく、名前を聞けば「ほぉ」と唸る人が少なくないらしい。

いや。おかしい、この学校の正門は、ここじゃない。もっと、あっちの、離れたところにある。うん、ちゃんと見た。あの道をあっちへ行って……その道をまた曲がって……うん、そう、そのはず。一度、見たもん。ここに引っ越してきてから、周りを散歩がてら、いろいろ見て回った。確実よ。ここに正門はなかった。正門じゃないかもしれないけど、でも、こんな立派な、いかにも門です、という感じの門は、ここにはないはず。

その門の向こうに校舎。学校だから当然ね……いやいや、それも、ヘンだ。こんな近くには見えないはず。もっと向こうのほうに校舎はあるはず、校庭、グランドの先に。とにかく、まあ、でも、この学校はある。だったら、あそこにウチのマンションが、なければおかしいのに……どうして? なぜ?

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