「……で、俺の行く中間地区の住人は……、けっきょく何を食うんだ?」

「中間エリアでは、フィッシュ・ベジタリアンやポーヨー・ベジタリアンも暮らしているので、魚や鶏肉も少しはあります。ただし鶏は食肉加工されるのに厳しいルールがあって、鶏の寿命の三分の二を過ぎてからでないと加工できません。はっきり何年と決まっていないのは、鶏の寿命も延びるかもしれないからだそうです。中間地区の政府が管理しています」

「鳥の、寿命……。……それまでは、誰かが飼うのか?」

「もちろんですよ。国家公務員が雌雄混合で、自然に近い状態で飼育して、雌は夜はしっかりと寝て昼間だけ卵を産みます。それがグリーンランドに輸出されたりもします」

国内で「輸出」って……。

「で、雄は何を……、あ、いや、魚はどうなってるんだ? やっぱり、決まりがあるのか? 稚魚は寿司にするなとか……」

「魚に関しても似たような法律があるんですけど、ほとんどが天然なので、自然界の都合もあって、厳密には決められてないみたいです。捕れる数はしっかり規制されてますけど」

「へえ……。八年でかなりややこしくなったみたいだな。ある意味では単純とも言えるけど」

「そうですね」

彼女はまたアイドルばりの笑顔を向けた。

「あー……色々と教えてくれてありがとう。助かった」

「仕事なので。アハハ。……それに、好みのタイプだし」

最後の部分はよく聞き取れなかったが、再度礼を言い、タクシー乗り場の方へ歩き始める。

「ちょっと待って!」

だが数メートルほどで、すぐに彼女に呼び止められた。

「……え?」

「今言った決まりはあなたの住む中間地区内でのもので、他では全然違うから! 特に肉食エリアに行くことがあったら、気をつけて!」

その時の彼女は、恐らくこの話の最中初めての真顔で、彼女なりの営業用の敬語すら忘れており、妙に気になった。

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