ユジンたちは穏やかな生活を取り戻していた。サンマンは元気よく小学校へ通い、母親は内職をしながら家事をこなしている。彼女は、子供が学校へ行っている間、近くの喫茶店で働いた。

ありきたりの日々が幸せだと思う。父親の死から二年も暮れていないのに遠い過去のような気がするのは、悲しみが大きすぎたからだろうか。

店には日本人が時々来るようになった。おじさんが若い女の子を連れている。どんな関係なのか知らないが、会話が続かなくてもニコニコして具合のいい人たちだ。時々素敵な方も来店するのだが、やはり彼女を連れている。少し妬けるが仕方がない。そういう時は武を思い出すことにしている。

短い間だったけど沢山の思い出を残してくれた。ままごとみたいだった二人の生活も結構楽しかったと思う。よくお腹をさすってくれた。楽しみにしていたのよ、サンマンを。

『さぁ、おぼっちゃまが帰って来る時間だわ』

「店長、帰ります。お疲れ様でした」

「李さん、お疲れ様です。えっと、今度食事に行きませんか? 平日の休みの日とか」

「えっ、店長と? 私に何かミスがありましたか?」

「いえ、そんなんじゃなくて……無理ならいいです。小さなお子様もいらっしゃることですし」

「分かったわ。考えておきます。じゃ!」

ユジンは少し嬉しかった。私もまだ女性として見られているのね。でも店長年下だし、少し線が細いかも。

その日の夕暮れ。二人が台所に立っていた。

「ママ聞いてよ。ユジン二十八歳。デートを申し込まれました。へへ」

「ふーん、興味深い話ね」

「でしょう? 私もまだまだやれるわね!」

「で、相手の方はどんな?」

「店長よ。一年下の」

「あーあの方、真面目そうな人ね。どうでしょう。気の強いあなたと、やんちゃなコブ付きなのよ。対応できるかしらねー」

「私はいいとしても、サンマン様に失礼よ!」二人は笑った。

「そうだわ、ユジン。郭さんのところへお祝いを届けなきゃ。お子さんが生まれて久しいみたいだから。男の子だって」

「そうなの。行かなくちゃ。サンマンと行くわ。良い日を教えて」

【前回の記事を読む】【小説】「失った絆を手繰り寄せるためには会っておかなければならないが女がいる」