しばらく立ち尽くしたまま、恐怖に屈しそうになる己の内面と向き合い悶絶していたゲンだったが、一歩を踏み出せば流れに乗れるのではなどという淡い期待を胸に雇い主を探すことにした。

妖魔狩りは、数人で組まれる班、あるいは分隊で構成され、協力して妖魔を狩ることが基本となっている。人数は街やその一行の趣向によって様々だが、一般的には六人から八人で編成される。

雇い主を探すには、街の広場にあるいくつもの高札の中から一つの依頼を選び、その依頼を発注している発注者のもとへ行く。多くの場合は店を構えているため、そこへ行けば雇ってもらうことができる。

ゲンはできるだけ簡単そうな依頼が出ている妖魔狩りに参加しようと探して見る。だが、妖魔狩りに難易度があるわけでもなく、仕方なく目についた依頼を引き受けることにした。ゲンは一番はじめに目に入った依頼に目を向ける。発注者は、『ゴンゾ商会』という店らしい。ゲンはゴンゾ商会という店を探して街を歩く。

店は表通りの南口の一角にあった。商会の建物を表す看板は古びているが、辛うじて店の名前は読める。ゲンは店の前で立ち止まり、少し考える。本当にこの依頼でよかったのか今になって少し心配になってきた。だが、ここで引き返すわけにはいかない。ゲンは思い切って店の中へ足を踏み入れる。すると、ゲンの姿を認めた一人の中年の男が店の奥から姿を現す。ゲンは思い切ってその男に向かって声を張り上げる。

「俺を雇ってくれないか」

ゲンがそう言うと、男はゲンを鼻で笑う。

「小僧。お前、俺を馬鹿にしに来たのか」

男の言葉にゲンは困惑する。別に自分の態度に失礼は無かったはずだ。だが、目の前に立つ男からはなぜか怒りを感じる。ゲンは、思わず気になり尋ねた。

「俺、何かおかしいこと言ったのか」

すると男は面食らったような顔をする。

「小僧。お前、もしかして本気でここへ来たってのか」

男にそう言われ、ゲンは頷く。すると男は何が可笑しかったのか笑い始めた。そして、申し訳なさそうに言う。

「いや、すまんすまん。てっきりお前が、俺の店を冷やかしに来たクソ野郎なのかと思ったんでな。とんだ勘違いだ、許してくれ」

そう言って、男はゲンを店へ招き入れる。