玲子さんが優一さんと私を見ながら、「だって私、見てたけど、急に飛び出してきたのよ! 透がブレーキを踏んだけど、間に合わなかったのよ。透に非はないわ。非がないのに、これから警察だ、裁判所だと相手にしていけば透はどうなるの!

ずっと辛い受験勉強をしてきて、さあ、これからって時に、こんなことってないわ。貴方のあとを継ぐ子なのよ。期待もかけてきたし、諦めるなんて出来ない。真弓さん、助けて、この子を助けてあげて。この子は貴女も赤子の時からずっと見てきた子よね。勉強もずっと見てくれて、貴女が医大に入れてくれたも同然よね。

貴女もこの子を見捨てるの? そうよね、いくら家族同然の付き合いとはいっても、所詮は他人ですものね。私はこんなこと認めない、ああどうすればいいの……」。 

私は優一さんと玲子さんに視線を戻して、「私、代りになります。玲子さんの気持も優一さんの立場も解ります。それが良いことだとは思いませんが……」。 

優一さんが私の返事に答えて、「私も良いことだと思っている訳ではないが、玲子の言うのも解る。透も可愛想だ。貴女には誠に申し訳ないと思うが、窮余の一策かも知れない。

もし、倉知さんが助けて下さるのなら、この御恩は一生忘れません。引き受けて下さるなら、出来る限りのサポートはさせて頂きたいと思います。後の心配も要りません。誠に申し訳ないと思いますが、何卒よろしく頼みます。

早くしなければ救急も間に合わない、人も来る。透、運転席から出なさい、早くしなさい」。

私は車から降りながら、「私がハンドルを拭います。私の指紋を一杯付けておかなければ。運転席に着いてエンジンをかけてみます」

優一さんが運転席の私に「今、警察と消防署に電話するが、真弓さん、警察が来て、話すことになる。

老人が急に飛び出してきたことは事実だから、それをそのままに話して、君が運転していたことで押し通さなければいけないよ。間違っても迷っては駄目だよ。それは疑われることに繁がるから……いいね」。

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