「今日は疲れただろうから、部屋にある物を食って寝ろ」

ぶっきらぼうに男が言った。中に入ると、床に無造作にパンだのおにぎりだのの食料と、ペットボトルの飲み物が置いてあった。お腹がペコペコだったので、盗むように急いでパンとおにぎり両方を上着の内側に隠した。

見回しても男はもういなかった。俺は空腹を満たそうと、パンとおにぎりにかじりつき、ペットボトルのお茶で流し込んだ。お腹が満ちたので、家の中をキョロキョロ見回した。

まだ部屋も与えられていないし、できれば汗も流したかった。ふと外を見ると、また車が到着して、よろよろと歩く女性を別の男が家に引き入れている。

俺を連れてきた男が、女性を連れてきた男に、「おい、気をつけろ! 誰に見られているかわかんねえんだぞ」と声を荒げた。さっきの男と、ほかに数人の男が、どこからか女性を連れてきて、得体の知れない液体を飲ませていた。

普通ならここで逃げ出すのかもしれないが、この日の俺はそんなことにも神経が麻痺するほどに疲れていた。どこで寝ていいかもわからないから、玄関の端で眠った。

朝、台所で水を使っていると、昨日の男が「お前まだ運転免許も持っていないのか、使えねえな。買い物とそのへんの掃除をやっておけ」と、メモとお金を渡してきた。

逃げるチャンスはあったのに、それをしなかったのは、諦めてしまっていたからだ。

ここから逃げ出して、またどこかに行っても、自分の力で生きるには、どうしたらいい? 暗雲のように広がる不安を、頭から追い払うのに必死だった。

買い物に出かけた。おにぎりやパンやスナック菓子、そして持てる限りのペットボトルの飲料、徒歩でこれだけの荷物を持って帰るのは難儀だった。自転車なら乗れたのにな。やっとの思いで木造住宅に戻った。家に戻って、言われたとおり、そこいらを掃除していたら、あっという間に薄暗くなってきた。

危険は迫っている。でも、考えないようにしていたのだ。どこからか連れてこられた女性が、危険ドラッグを使われていた。いや、その物体が危険ドラッグだと知ったのも、かなりあとのことになる。その頃の俺は、臭い物に蓋をして、必死で自分に都合よく物事を考えようとしていた。あの女に出会うまでは。

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