花の精ラーラと木の精リックの物語

「妖精をつくりばなしだとおもうかね。たとえ見たことがなくとも、わたしはときどき感じるのだよ。このありふれたやさしい日常こそが、まさに妖精が生きている証拠(しょうこ)ではないだろうか」

ここは妖精の国。ここでは、さまざまな才能をもち、楽しそうに野山をかけまわり、川の流れる水に自分の姿をうつしては、うっとりしている妖精たちばかりがくらしていました。何もかも満たされたこの妖精の世界では、すべてが美しく、邪悪なものはひとかけらも存在していませんでした。

星がかがやく美しい満月のある夜に、かわいい女の子の妖精が生まれました。頭には小さなまるみをおびた黄色いツノが。そう、その妖精は花の精でした。花の精は生まれたときに、ツノのようなものが生え、それはやがてつぼみになり、花が咲く。そして、その花が開いたとき、だいすきな人と結婚をしなくてはいけない決まりになっていました。この生まれたばかりの女の子の名前はラーラといいました。

その3日あとにひとり、木の精の男の子が生まれました。名前はリックと名付けられました。リックもまた、頭の上に小さくとがった茶色のツノが生えていました。そのツノは、リックの成長とともに、幹となり、枝がのび、葉が生まれ、そして、その葉がなん枚もなん百枚にもなって広がり、すてきな木の精になっていくのでしょう。

ふたりにおとうさんとおかあさんはいるのかですって?

おとうさん、おかあさんはいません。それは、妖精のふしぎのひとつなのですが、妖精の世界では、花の精になれるのはたったひとりだけ。もちろん木の精も。同じなかまはだれひとりいないのです。

妖精は生まれたらすぐに空をとべたり、ことばをはなせたりするので、だれかがお世話をする必要はありません。妖精の世界ではそれが自然なことでした。それでは、ラーラの名前をつけてくれた人はだれなのでしょう。それは、近くにいた妖精がはじめにはなしたことばが、生まれたこどもの名前になる決まりになっていました。

ラーラ。きっと、名前をつけたのは風の精でしょう。風のことばで、ラーラは、「やさしい」という意味だからです。

リックは、きっと火の精でしょう。「リック」は火の精のことばで、「たくましい」というそうです。ふたりともすてきな名前をつけてもらって、すくすくと育っていきました。