その時である、

「おやめなさい。抜いてはなりません!」

これまでになく卑弥呼は声を荒げて言った。また怒られてしまい、佳津彦は涙を浮かべてうつむいてしまう。

「剣についての取り扱い説明が先でした。あなたたちにも周知の伝説で、いまでいう名古屋市熱田区にある由緒ある神宮に祀られていた“草薙”の剣を盗み見た者がいました。しかしその者は祟りで命を落としたと言われています。とはいえその伝説の持つ意味とは祟りなどではなく、それに見合った力を持つ者以外が剣を抜けば、その者に何が起きるかわからないということなのです。

この剣は私が受け継いだ聖剣であり、先祖代々伝わっている家宝なのです。我々一族の祖先は古代ギリシャに起源があると考えられ、エーゲ海沿岸を席巻し特殊能力を持った戦闘民族であり、大陸横断の末に海を渡り、突如としてこの地に現れたと伝わっていました。それが事実だとすればこの国にとって我々は、本当は迷惑な存在だったのかもしれませんね。またその剣はオリハルコンの剣と呼ばれた時期もあったようです。

いずれにせよ。剣がどのような力を持ち合わせていようとも、それがどれだけ強力であろうとも、私は武器を手にはしません。当然今の私には実体がないのですからね。その剣は明日美、あなたに託します。その剣を私は抜いた経験がありません。なぜなら私の能力では使いこなせないことがわかっていたからです。

私は明日美のような子孫が現れることは予知できていました。会える時を楽しみにしていたのです。あなたの戦闘能力は桁外れです。そしてこの剣は意志を持っており、あなたとは相性がいいはずです。かつてこの剣を握り激戦を戦いぬいた者の、その意志をも剣は受け継いでいます。剣があなたを呼んだのかもしれませんね。

この剣は先の戦闘を含めさまざまな戦いをくぐり抜けてきました。その中で培った、攻撃と防御に関する多彩な情報を秘めています。また、特殊な力も兼ね備えており、あなたの能力との相乗効果で、その時々で最高の戦いをしてくれるはずです。さあ明日美、剣を抜きなさい」

「姫様のご先祖様といってもつまりは私たちのご先祖様ですよね。どんだけ昔の話なの、凄すぎて何かよくわかんなくなっちゃったみたい」

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