第五章【覚醒】

半分食べ掛けの菓子を置いて、おそるおそる佳津彦から剣を受け取ると、ずっしりとした重みを感じた。こんな重い剣を使いこなせるのだろうか。一瞬不安がよぎった。ゆっくりと、鞘から剣を引き抜いていくと、『シャリシャリ……』と金属のこすれる音が聞こえ、諸刃が見え出したと同時に剣が青い光を放ちだしたのだ。抜くに従って明日美の表情が険しく変化し、力がみなぎっていく様子が周囲にも伝わっていく。しかも長い黒髪が逆立っている。そしてまばゆいばかりに光る剣を高く振りかざし、雄叫びを上げているのだ。

「明日美、剣を鞘に戻しなさい」

卑弥呼の声に我に返った明日美は剣を戻した。

恍惚の表情でその場に座り込んでしまう。

「これは想像以上ですね。ここまでとは……剣も喜んでいるようです。明日美、大丈夫ですか、どんな感じでしたか」

「どんな感じも何も気持ちいい。これ、ヤバイかも、癖になっちゃいそう、どうしよう姫様―」

「オホホホホ。さすがあなたですね。心配無用でした」

初めて卑弥呼の表情に本当の微笑がこぼれるのをみた。

「姫様、眩しいですけどもう一度やってもいいですか。でも、剣を抜くたび光ったらオリハルコンでできているのかわかんないよね。そんでもって青い光って天見家のシンボルカラーにでもなってんのかなぁ」

屈託のない笑顔で剣を見つめている。

「その剣が光を放つ時は敵が近くにいることを知らせる場合と、その剣を持つにふさわしい者に出会った時だけです」

卑弥呼が嬉しそうに目を細めて言った。

改めて見てみると鞘は褐色の革製で、渋い艶に重厚さを感じさせ、表面にはうずを巻いた欧風の唐草、パルメット文様が確認できる。剣の持つ魔力であろうか、今も変わらず当時の姿をそのまま残していたのだ。

その上、長さ60センチメートルほどの剣のグリップは細く、明日美の掌のサイズにぴったりとマッチし、ガードは小さく派手な彫刻もない。機能性重視の攻撃型だ。古代ギリシャのクシポスという直刀を、やや細身にした姿をしている。機能的なものは美しい、センスがいい。卑弥呼好みのアイテムであろう。