車は間もなく本部に着いた。

「本部長に報告に行くぞ」

猛はそう言って車を駐車場に停め、本部へ入っていった。

「あら猛、早いわね」

事務の女性が声を掛ける。部長室へ行く間、猛は男女問わず会う人皆に、声を掛けられた。特に女性の笑顔がにこやかだ。猛はこの局でかなりの人気者のようだ。

そんな猛の姿を、恭子は冷めた目で見ていた。猛のせいで、恭子は何度も立ち止まらなくてはならなかった。猛を待っていると、自分の袖を引っ張る者がいた。

「ねえ、実験を見ていかない?」

袖を引っ張っていたのは、ずんぐりむっくりした、小柄でえらく度のきつい眼鏡をかけた白衣の男だった。反対側の袖を猛が引っ張って、白衣の男から遠ざけた。

「……奴の仇名(あだな)はゲンナイ。奴の実験には付き合うなよ。死ぬぞ」

そう言いながら、ゲンナイを無視するように廊下を進んで行く。

「いいよ! 僕一人でするから! 世紀の発明品誕生の瞬間を見逃した事を後で後悔しゅるなよ!」

ゲンナイの叫び声が背後で木霊する。彼は(きびす)を返して、プンプン怒りながら研究室に入って行った。

「いいか。ゲンナイが何か重大な実験をすると言って研究室に入ったら、研究室に近付くなよ。さもないと――」

言葉の途中だった。

ドッカーン!

轟音と共に、背後で研究室のドアが吹き飛んだ。廊下に煙が立ちこめる。

ケホッケホッ。

廊下に居た職員達は()き込む。研究室の方からも咳き込む声が聞こえ、人影が見えた。ゲンナイが真っ白になって煙の中から現れ、廊下にバッタリ倒れ込んだ。

「まあ、何時もの事だ」

猛はゲンナイを見ながら呆れた声を上げた。

「まあ、百個に一個ぐらいで使えるモノが出来るんだけどな。今日使った消音器も奴の作品だ」

猛は恭子の方を見る。恭子は目を剝いていた。

「ん? ……」

猛が恭子の顔をまじまじと見つめる。

「何ですか?」

「いや……、お前よく見ると結構可愛い顔してるな」

恭子は呆然となった。何を言っているのだ? この男は。

「馬鹿にしないで下さい」

恭子は横を向いた。

「馬鹿になんかしてねえよ。単に事実を言ったんだよ……」

そう言いながら、何事も無かったように部長室へ向かう。部屋の前まで来ると、ドアを叩き、二人は部長室へ入って行った。

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